「監督はいかに人をうまく扱うかが重要」=松本山雅FC・反町康治監督インタビュー

元川悦子

「アルウィンでやる時は一体感があって楽しかった」

選手の持っている力を引き出すのが監督の仕事と語る反町監督(右)。来年の松本山雅はさらに飛躍することはできるのか 【写真:アフロ】

――今季42試合の中で、理想的な試合運びができた試合、失敗した試合というのは?

 1年間で狙い通りの試合なんて1試合あるかどうかだけど、今季は3〜4試合もあった。ホームの東京ヴェルディ戦(第23節、3−2で勝利)、アウエーの横浜FC戦(第34節、1−1で引き分け)、ホームの水戸ホーリーホック戦(第39節、2−1で勝利)……。特にアルウィンでやる時は一体感があって楽しかったですよね。

 逆に自分の力不足を痛感させられたのが10月のアウエーの栃木戦(第40節、2−3で敗戦)。プレーオフ進出のかかる大一番でしたけど、開始早々の失点から、試合の進め方、選手交代まで自虐的になるくらい全てがダメ。本当に悔いが残る試合でした。メディアのみなさんは試合中のさい配うんぬんを評価したがりますけど、準備段階から選手やチームの状態を見極められて、試合の頭からベストな選手起用のできる人が本当のいい監督です。ここがブラジルだったら、全然勝てなかった3月にクビになってたと思います。僕もまだまだですよ。

――ただ、今季ここまで躍進したんですから、来季は本気でJ1を狙うんですよね?

 そういう風に勘違いしてる人が多いから困るんですね。僕はそんなこと一言も言っていない。J2でもJ1でも昇格2年目のチームがどのくらいの順位にいるかをよく調べた方がいい。ウチは練習場もないし、戦力、資金力を含めたクラブ力もそこまでいってないから。

――ですが、今季の松本山雅は観客動員が甲府、大分に続く3位で、来季は運営費が10億円に達する可能性もあります。となれば、ある程度の戦力もそろえられますよね?

 甲府のダヴィみたいに頭抜(ずぬ)けた得点力を持つ選手が来ればいいかもしれないですけど、FWだけいればいいってもんじゃない。パス出しのできるセンターバックも必要だし、ボランチだってサイドだって陣容的に薄い。今、試合に出てる選手が全員出られなくなるくらいの選手層にならないと難しいですよ。

 千葉なんかJ1クラスの戦力をそろえていても、昇格することができなかった。アビスパ福岡だってそう。そういう意味で松本山雅はまだまだボトム。今年は22番目からのスタートだったけど、来年はV(ヴィ)・ファーレン長崎が上がってくるから21番目のスタートとなる。21番目ってことはJFLとの入替戦に回る可能性だってある。そのくらいの危機感を持ってやらないといけないですよね。

「選手の持ってるものをよりうまく引き出さないと」

――松本山雅の資金規模を考えると、湘南や甲府がいい参考になりそうですが。

 湘南時代のノウハウはもちろん生かしています。練習生だったハン・グギョン、強化指定だった永木亮太が今は主力になってるし、若い菊地大介や古林将太を草津に期限付き移籍して経験を積ませたことが成功につながってる。

 そういう取り組みを学んで、今年の松本山雅は練習生を80人以上呼びました。その中から来年7〜8人は入る予定になっています。ウチはほかからはじき出された年齢の高い選手が多いから、若返りも図っていかないといけない。来季の戦力が固まるのはこれからだけど、試合に出られない年代別代表の選手にも目をつけてるし、少なくとも今年よりは競争力は上がると思うよ。

――反町さんから見て、今季J1昇格を決めた甲府、湘南、大分はどういうところが成功要因だったと分析していますか?

 甲府はもちろんダヴィの存在感が絶大でしたけど、城福(浩)さんの指導力、クラブとしてのブレない姿勢も素晴らしいと思います。

 湘南は自分が携わっていたクラブだからよく知ってますけど、監督のチョウ(貴裁)がこれまで積み上げてきたスタイルを貫き通したのがよかった。地道に選手を集め、若手を育てたのが実ったわけだけど、長い歴史のあるクラブだから環境も整ってる。練習生を受け入れるにしても、芝生のグランド2面と筋トレ設備もあって、食事もついていて、いいサポート体制の中で迎え入れることができる。ウチは洗濯でさえ自分でやってる状態だから、そういうところも見習わないといけないですよね。

 大分は監督の田坂(和昭)のやり方が浸透したんじゃないかな。1年目は若手主体であまりうまくいかなかったけど、ベテランを少しずつ増やして、選手の良さを多角的に見ながら起用したのがプラスに働いた。集客の多さもチームの力になったはず。やっぱり大勢のお客さんの中でやれるのは大きいから。

――J2全体の傾向で気づいたことは?

 いろんなことを研究する仕事熱心な監督が増えて、1つひとつ試合の持っていき方が難しくなりましたよね。自分がアルビレックス新潟で監督を始めた10年前はもっと大雑把(おおざっぱ)だったけど、今はきめ細かくやってる人が多い。セットプレーなんかも徹底的に調べていてるし、その辺はJ1と違うところかもしれないです。

 降格制度ができて、監督経験の豊富な人がより重宝される傾向が強まったようにも思います。新しい監督、現場から離れすぎた監督が指揮を執るのは一段と難しくなるでしょうね。自分自身はこれまでの蓄積を生かして今季は最低限の結果を残したつもりですけど。

 サッカーの監督っていうのは、分析力とか戦術眼よりも、いかに人をうまく扱うかが一番重要なのかもしれない。J2の選手は足りないところが多い分、持ってるものをよりうまく引き出してやらないといけない。そういう難しさはあるけど、その分、面白い。
 
 とにかく来年はもっとクラブ力を養えるように、地道な作業を続けていきますよ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント