母国で不人気もクラブW杯に本気のチェルシー=不振の欧州王者は復調のきっかけをつかめるか

寺沢薫

イングランドでは支持されないクラブW杯

クラブW杯で復調を目指すチェルシー。サンダーランド戦で2ゴールのフェルナンド・トーレスも完全復活なるか 【Getty Images】

 クラブワールドカップ(W杯)という大会は、どうもイングランドでは人気がない。もちろん、参加する選手や監督は、「重要な大会だ」と口をそろえる。だが、母国の人々のほとんどは選手や監督の発言とは裏腹に、かなりの温度差を持って大会を見守っている(現地時間で午前中の試合開催になるため、見守っているかどうかも怪しい)。各メディアでも、大々的な特集が組まれているのをほとんど見たことがない。

 それだけならイタリアやスペインでも同じかもしれない。だが、イングランドは特にFIFA(国際サッカー連盟)主催のクラブ大会に対して冷ややかだ。例えば、チェルシーは12月8日のサンダーランド戦を戦った後、ノースイーストから直接、成田へと飛んだ。しかし11月の時点で、クラブはサンダーランド戦の延期をプレミアリーグに求めたが、断られたことを明かしている。時差に慣れるため、もう2〜3日早く日本に着きたかったようだが、当時監督だったロベルト・ディマッテオいわく、「驚くべきことにプレミアリーグは協力してくれなかった」のだという。イングランドには、国を挙げて母国のクラブをサポートしよう、という空気はさらさらない。

 チェルシーの前にイングランドのチームがクラブW杯に参加したのは2008年。マンチェスター・ユナイテッドが来日し、ガンバ大阪とデポルティーボ・キトに勝って世界一になった大会だ。この際も、アレックス・ファーガソン監督やウェイン・ルーニーは大会前から熱い様子で世界一への意気込みを語っていたが、ポール・スコールズだけが、タブロイド紙にポロリと本音を漏らしていた。
「大きな大会だから勝ちたい。でも、イングランドに残って1月にプレミアリーグの試合を増やさない方がいいのは明らかだ。だけどそれは仕方がない。欧州王者になったのだから、その後はしたくない仕事だってしなくてはいけない」

 マンチェスター・ユナイテッドは優勝したからいい。わざわざ遠方に遠征して大会に負けてしまえば、さらに大きな問題が起こる。05年に来日したリバプールは決勝でサンパウロに敗れているが、当時のメンバーだった元ドイツ代表MFディートマー・ハマンのコメントが先日、BBC Sportの記事で紹介されていた。
「結局、10日ほどイングランドを離れたことでリーグへの集中力が切れてしまった。大会に勝てれば問題ないが、負けてしまうと嫌な記憶として残るわけだし、その後の過密日程においてネガティブな影響は避けられないよ」
 どうもイングランドでは、世界王者のタイトルというメリットよりも、シーズン途中の遠征による疲労や日程の過密化というデメリットの方が目につくようだ。

失っていた自信を取り戻す重要な機会

 しかし、今大会のチェルシーに限って言えば、日本で過ごすことが思わぬアドバンテージになるかもしれない。というのも、いまの“ブルーズ”は、歴代の欧州王者たちの中でも群を抜いて状態が悪いのだ。
 
 開幕当初こそ、エデン・アザールやオスカルといった新戦力がフレッシュなプレーを見せ、攻撃サッカーでリーグ首位を快走した。だが、10月末にマンチェスター・ユナイテッド相手に初黒星を喫すると、一気にリズムが崩れて失速。11月21日にディマッテオ監督が電撃解任され、後任にはラファエル・ベニテス監督が抜擢(ばってき)されるも、事態は好転せず。むしろ、リバプールの監督時代に度々、チェルシーと舌戦を繰り広げていたスペイン人指揮官の就任に、サポーターは明らかな嫌悪感を示し、チームを取り巻く空気はさらに悪くなっている。

「Rafa Out!(ラファ、出て行け!)」
「You're not welcome here(ここで、お前は歓迎されない)」
「You're getting sacked in the morning(明日の朝にはクビだ)」
「In Rafa we will never trust(ラファのことは絶対に信用しない)」
 現在のスタンフォード・ブリッジには、辛辣なチャントと横断幕があふれている。

 クラブ・ワールドカップについて言及した数少ない現地の記事の中で、『オブザーバー』紙のドミニク・ファイフィールド記者は、この空気を打破するのがクラブW杯だと持論をつづっている。
「不安定なチェルシーは、日本行きをアドバンテージに変えなければいけない。クラブW杯は、ベニテスと不調のチームに、結束と再編成の時間を提供する。たしかに、この時期に横浜で2試合を戦うことは、彼らのプレミアリーグでのリズムを崩壊させるかもしれない。だが、彼らは日本滞在をチャンスと捉えるべきだ。ベニテスは自分たちのサポーターからのブーイングを受けず、落ち着いた環境で、選手たちとの距離を縮められる」

 幸い、来日直前のサンダーランド戦では、“眠れるエース”フェルナンド・トーレスがプレミアリーグでは10月6日のノーウィッチ・シティ戦ぶりにネットを揺らし、2ゴールを記録した。さらに、負傷離脱していたフランク・ランパードも、1カ月半ぶりにピッチに戻ってきた。ケガからの復帰が間に合わなかった主将のジョン・テリーが来日できなかったのは残念だが、エースストライカーの復調と中盤のリーダーの帰還は、最近のチームが抱えていた問題点を解決するかもしれない。チェルシーにとって、クラブW杯で結果を出すことは、世界王者のトロフィーと名誉が手に入るだけでなく、失っていた自信を取り戻す意味でも重要なのだ。

 ベニテス監督自身も、「選手たちと日本で一緒の時間を過ごせることはポジティブだし、助けになるはずだ」と認めている。だが同時に、「この大会はヨーロッパでは重要と思われていないかもしれないが、ブラジル人やメキシコ人にとっては違う。彼らにとっては、ヨーロッパのビッグチームに対して、自分たちのレベルを証明するチャンスなんだ」と対戦相手への警戒も口にしている。

 13日に横浜で準決勝を戦う相手はメキシコのモンテレイに決まった。準々決勝では、アジア王者の蔚山現代を小気味のいいポゼッション・サッカーで下し、敗れた蔚山のGKキム・ヨングォンに「モンテレイはチェルシーを倒すかもしれない」と言わしめた好チームだ。決して簡単な相手ではない曲者が相手だが、チェルシーは波乱万丈だった2012年をいい形で締めくくり、2013年の逆襲につなげるため、絶対に負けるわけにはいかない。
 イングランドのエリート集団は、本気でタイトルを穫りにくる。

<了>

(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)
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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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