フットボーラーズ・フットボーラー=シリーズ東京ヴェルディ(終) ひとつの時代が終わり、次のサイクルへ

海江田哲朗

土肥「うまい選手はいたけれど、バラバラだった」

来季からチームを率いる三浦監督。北九州を躍進させた手腕を東京Vでも発揮できるか 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 ミュージシャンズ・ミュージシャンという言葉をご存じだろうか。一般の音楽愛好家からの人気ではなく、同業者の間でファンが多いミュージシャンのことだ。これにならえば、フットボーラーズ・フットボーラーという言葉があってもいい。例えば、現役選手の投票で選ばれるJリーグMVPやベストイレブンはそれに近いものがある。速さ、高さ、強さの三拍子がそろい、気魂(きこん)のこもったプレーが身上の土屋は、東京Vの多くの選手が畏敬(いけい)の念を抱くフットボーラーズ・フットボーラーだった。

「悔やまれるのは、昨年、今年と肝心なポイントを引き締められなかったこと。ゲームの中でギュッと締めなければいけないところが緩んでいた。コーチングで修正しようとしたが、個人戦術による部分が大きいからすべてカバーするのは難しい。それができていたのが2010年。クラブがなくなるかもしれないという危機感を持ちながら戦い、攻守とも選手同士が助け合いながらいい関係を築けた。1‐0で最後まで踏ん張り、ぎりぎり勝利をものにする試合が多かったのはその表れだと思います」

 と、土屋は語った。一方、土肥は今季の戦いをこう振り返る。

「チームに何かが足りなかったから、こういう結果になった。いい方向に流れを持っていけなかったですね。バラバラでした。うまい選手はいたけれど、バラバラだった。自分のことに関しては、これからゆっくり考えます。チームの方向性は上の人間が決めることですから、どうこう言うつもりはありません。自分が力になれないのは悔しいですけどね」

 サッカー選手は自身の内部に実体があるように見え、実際はチームの関係性の中に可変的なものとして現れる。基本、周りを生かすも殺すも自分次第で、その逆も真なり。選手は監督の使い方ひとつで驚くほど化けることもある。また、ひとつのクラブを長く見ていると、違うものと違うものが混ざり合う瞬間が面白いのである。東京Vの場合なら、育成組織から上がってきた生え抜き選手と外部から加わった毛色の違う選手。これがうまく混ざり合えば、これまでにないハーモニーを生み出す。例えば、土屋の持つ向日性(こうじつせい)に影響され、ヘコむより先にがむしゃらにプレーする若手が出てきてほしかった。そういった周囲との関係を構築する中で新たな一面を見せたり、互いに影響し合いながら変わっていく姿が、今年の東京Vではほとんど見られなかった。

三浦監督の手腕はどう発揮されるか

 最終節の草津戦、記者会見に臨んだ高橋真一郎監督は次のように話した。

「残り10試合、約2カ月の期間で劇的にチームを変えることができなかった。徐々に変えようと思いましたが、なかなか難しかったです。1年間指導してきて、チームとして苦しいときにやらなければならないプレーと、やりたいプレーの判断を間違えていたところがあった。最後の試合はチームとしてやらなければいけない部分を出してくれました」

 就任10試合の成績は3勝3敗4分け。結局、監督交代によって再浮上の望みはかなわず、目立った成果を挙げられなかった。高橋監督もまた、今季限りで東京Vを去ることが決まっている。

 11月25日、東京Vは来季の監督に、ギラヴァンツ北九州を2シーズン率いた三浦泰年氏が就任すると発表した。新監督が決定し、来季のチーム編成はどこよりも早く着手できる。そのアドバンテージを生かさない手はない。2年前、東京Vの経営トップに正式に就任したときから、将来の有力候補と見込んでいた羽生英之社長は言う。

「土台から作り直しではなく、これまでのベースに上積みし、来年昇格できる監督を選んだつもりです。何かを変えなければいけない。同じことをやっていても仕方がないのでね。チーム編成のメドは8割方ついています。ほかのクラブからオファーがある選手については現在交渉中。基本的な方針としては、条件を上げて選手を引き止めるつもりはない。ヴェルディでサッカーがしたい選手を残す。今季、他のクラブに期限付き移籍している選手たちは概ね戻す予定です。同時にコーチングスタッフの組閣も進めています。こちらも順調です」
 
 三浦監督の北九州での仕事は一定の評価を得ている。2010年、19位だったチームを翌年8位に押し上げ、対戦相手から要注意と研究されるようになった今季も9位の成績を残した。その手腕が東京Vでどのように発揮されるか。年明けからスタートするチームづくりを楽しみに待ちたい。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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