「監督交代はチェルシーの現状を物語っている」=前園真聖氏が語る、2012年クラブW杯見どころ

宇都宮徹壱

コリンチャンスの一員として凱旋する元Jリーガーたち

熱狂的で有名なコリンチャンスのサポーター。前園氏は移動時に物を投げられたこともあるという 【写真:アフロ】

――続いて南米チャンピオンのコリンチャンスについて語っていただきたいと思います。前園さんはブラジルのサントスに所属されていましたが、同じサンパウロを本拠とするコリンチャンスは、どのような存在なのでしょうか?

 コリンチャンスのサポーターはブラジルで一番熱いですね。Jでいうところの浦和レッズのような感じで熱狂的です。ソクラテスやドゥンガのような歴代のブラジル代表の名選手も所属していましたし、ロナウドやロベルト・カルロスのように欧州で活躍した選手でも、ブラジルに戻って来てコリンチャンスでプレーしています。本当の意味でビッグクラブの一つですし、少しお上品なサンパウロに比べると、コリンチャンスは庶民的で非常に熱いという感じです。

――サントス時代、アウエーでコリンチャンスと対戦する機会があったと思いますが、相当にプレッシャーを感じましたか?

 感じました。バスでスタジアムに入る時は沿道にサポーターがいて、物を投げてきますから(笑)。試合に負けた時は、簡単にスタジアムから出られるんですが、勝った時は(危険なので)1時間半も待たされたりします。

――そんなコリンチャンスも、意外にもリベルタドーレス杯は初優勝だったんですね。今から日本に行くのがうれしくて仕方がないようで、ホームゲームのゴール裏には、巨大な富士山のコレオグラフィーが出現して話題になりました。今回のクラブW杯でも、相当に気合いを入れて来日してきそうですね

 それは確かにそうです。やはり南米のチームは、なかなか欧州のチームと対戦する機会がないので、そういう意欲はトヨタカップの時代から感じていました。コリンチャンスの場合、南米王者として初の出場になりますし、チェルシーにはいち早く欧州で活躍しているオスカルがいますからね。だからこそ決勝は、チェルシーとコリンチャンスの対戦が実現してほしいですね。

――個々の選手で見ていくと、リベルタドーレス杯の決勝で2ゴールを決めたエメルソンが目を引きます。Jで実績を残した選手が、その後もブラジルで活躍して凱旋(がいせん)するのは、非常に楽しみですね

 元Jリーガーということでは、鹿島にいたダニーロもコリンチャンスにいますからね。こういうケースってわりとあって、コロンビアとの親善試合に元ベガルタ仙台のチアゴ・ネーヴィスがブラジル代表として出場していましたが、彼はその後、フルミネンセで10番を付けて、今はフラメンゴでプレーしています。解説の仕事でブラジルの試合を見ていると、そういう発見があって面白いですよ。

――あと、10月に日本と対戦したときに先制ゴールを決めた、パウリーニョもいますよね。あの横パスからのトーキックでのゴールは、いかにもブラジル人らしいプレーでした

 真横からきたボールって、インステップでも枠に飛ばすのは難しいと思いますよ。実は遠藤(保仁)から聞いたんですが「あのタイミングで、あの振りの速さでトーキックを蹴るとは思ってなかった」と言っていました。川島(永嗣)も反応が遅れていましたからね。彼らは普段の練習から、そういうレベルのサッカーをやっていますから。

――個々の選手の名前ではチェルシーに見劣りするコリンチャンスですが、決勝で欧州王者に対してどんな戦いを見せると思いますか?

 組織的な部分ではチェルシーの方が上でしょう。それにコリンチャンスは、組織力よりも個の力で打開するサッカーをしていると思います。ただ最近、ブラジルの国内リーグを見ていて感じるのは、暑い時以外は結構前線からプレスをかけて後ろが連動するというスタイルを取っているチームが増えていることです。つまり、以前と比べて欧州のサッカーを意識するようになって、守備の緩さもなくなってきている。それは、コリンチャンスの守備にも言えると思います。当然、相手の分析もしてくるはずなので、プレスをかけてボールを奪ってからの攻撃には注目したいですね。

――コリンチャンスとチェルシーだったら、前園さんはどちらを応援しますか?

 やっぱりコリンチャンスです(笑)。それほど資金面で恵まれていない南米のクラブが、欧州のクラブを倒すというのは、見ていて楽しいものがありますから。

広島には準決勝まで勝ち進んでほしい

――欧州と南米以外の大陸で、気になるチームはありますか?

 自分は韓国でプレーしていたこともありますので、蔚山現代はそれなりに注目しています。元Jリーガーや代表選手が多いみたいですね。

――元ガンバ大阪のイ・グノやキム・スンヨン、ラフィーニャなんかもいますよね。それにしても蔚山は国内タイトルをあまり獲得していないのに、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝ラウンドでは全勝しています。いつも思うのですが、韓国勢の勝負強さは何に起因するのでしょうか?

 難しい質問ですね。ただ、代表で対戦した時やKリーグでプレーした時にも感じたのですが、本当に残り5分になっても走り切る、韓国のメンタル面での強さはすごいと思います。それこそ彼らは、幼少期のころからそういう風に育てられてきたのだと思いますね。向こうで子どもの大会を見たことがあるのですが、2試合やって負けたら、その後すぐにトレーニングとか、普通にやっていましたから。確かに足元のうまさというところでは、日本人のほうが上です。でも、ロンドン五輪でもそうでしたけど、勝負に懸ける強い思いと1点の重みというのは、韓国の方が強いと思いますね。

――そして忘れてならないのが、開催国代表として出場するサンフレッチェ広島です。Jリーグチャンピオンは今大会、どこまでやれると思いますか?

 ガンバ大阪がマンチェスター・ユナイテッドを相手に、3−5と良い試合をしましたが(08年大会)、ああいうイメージがあります。大舞台でも、普段どおりの広島のサッカーができれば、いいところまで行けると思いますね。できれば準決勝でコリンチャンスと当たるところまで勝ち進んでほしい。やはりそこまでいかないと、自分たちのレベルが測れないというか、そこにいって初めて自分たちができることと課題がはっきりと分かってくるので、そこまではいってほしいですね。

――あのサッカーを大舞台で展開できたら、海外のメディアに対しても新鮮な驚きを与えるでしょうね。あらためて、大会を楽しむためのアドバイスをお願いします

 やはり決勝はチェルシー対コリンチャンスになると思います。でも、普段あまり目にしないようなチームが来ますし、今はそれほど有名でなくても、いずれW杯やCLで活躍するような若い選手もいますので、そういったところにも注目したら面白いと思います。あとは、コリンチャンスや蔚山の元Jリーガーなんかも「あいつ、今も頑張っているんだ!」という感じで再会できるんじゃないですかね。

――最後に、今大会の1位から4位までを予想していただけますか?

 うーん。(しばらく考えて)1位はコリンチャンス、2位はチェルシーですかね。3位は期待も含めて広島、4位はモンテレイと予想します。

――今日はありがとうございました

<了>

(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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