広島を初優勝に導いた森保監督の手腕=“連敗しない安定感”を生んだ修正力

中野和也

敵将も認めた完成度の高さ

広島は圧倒的な攻撃力でC大阪を粉砕し、J1初優勝を果たした 【写真は共同】

 粉砕――。そんな言葉がピタリとはまる圧倒的な攻撃力を見せつけたサンフレッチェ広島は、セレッソ大阪に4−1と完勝し、J1初優勝を決めた。11月24日に行われたJ1第33節は、「勝てば優勝の可能性がある」一方で、「負ければ首位陥落の危機」でもあった。その瀬戸際の戦いで、広島は「自分たちのサッカー」を存分に発揮する強さを見せつけた。

 この試合こそ、「広島がなぜ優勝できたのか」という要素が、存分に詰まっていた戦いだ。戦術面から精神的な部分まで「This is 広島」。レヴィー・クルピ監督が「広島はナンバー1」と語ったほどの完成度を誇るこのチームの今季ベストゲームだった。

 広島最大のストロングポイントは、後ろからパスをつなぐポゼッションをベースとする攻撃力。ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督(現浦和レッズ)が選手たちとともに、長い年月とたくさんのアイデアを注ぎ込んで創り上げた独創性に満ちたものだ。後ろでゆっくりとパスを回しつつ、機を見てクサビを入れてコンビネーションを構築。緩急のリズムと前線の3人が織りなす絶妙のアンサンブルが、広島サッカーの生命線である。

 そのストロングポイントを、ほとんどの相手は自分たちのサッカーを捨ててまで、消しにかかる。前線の3人に対してマンマーク気味にDFを密着させ、サイドも引いて5バック気味の布陣を引く。一方で前線からプレスをかけてパスコースを限定させる。これが広島対策の常道であり、C大阪もまた同様の戦術を仕掛けてきた。

 ここで相手が「対策」によって本当に狙っていたのは、密着DFで広島の攻撃をつぶすことではない。むしろ、精神的な動揺を誘うことに重心は傾いているはずだ。

 相手の対策によって自らのストロングポイントを発揮しづらくなった広島は、縦にパスを入れることを恐れるだけでなく、後ろから攻撃に参加して数的優位をつくり出すという「もう一つの特徴」も発揮できなくなる。そうなってしまえば、前線に高さやドリブルがない広島の攻撃に迫力が薄れるのは当然だ。

終盤戦の苦しみを乗り越えて

 浦和戦の前半は「まさか、ミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)まで対策を引いてくるとは」という動揺と、優勝争いによる硬さとが合わさってしまい、リスクを負わないサッカーに堕してしまった。広島の終盤戦の苦しみは、相手に“はめられた”からではない。対策を「打ち破ろう」という強い意思が、プレーとして昇華しなかったからだ。

「相手の対策に苦しんでいた。だけど、本当はメンタル。自分自身に問題があったことに、浦和戦の後に気がついた」

 青山敏弘の言葉は、まさに本質。だが広島は、浦和に敗れた次のC大阪戦で、その「気づき」をしっかりと修正した。自分たちが培ってきた「リスクを恐れない攻撃サッカー」を、C大阪戦では発揮する。広島は今季8敗しているが、その翌節は5勝3分。しかも3分の次はすべて勝っている。この修正力の高さが「連敗しない」安定感につながった。

 そのC大阪戦の4得点には、広島らしい攻撃が凝縮されていた。「クサビ→落とし→シャドー」とつながるコンビネーション。両ワイドのパス交換というダイナミックな展開と3列目からの飛び出し後ろでのパス回しで相手を食いつかせ、スペースをつくってのスルーパス。1点目は中央から相手のブロックを突き崩し、2点目から4点目は中から外、外から中というボールの出し入れからの攻撃が実を結んだものだ。

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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