苦境を乗り越えた長谷部誠が見据える理想像=クラブでレギュラーを奪回、取り戻した自信
指揮官解任で状況が一気に好転
指揮官の解任によりレギュラーを奪回。現在はコンスタントに出場機会を得ている 【Bongarts/Getty Images】
不完全燃焼の日々から抜け出し、前向きな状態で迎えた今回のオマーン戦。長谷部は「試合に出ていることで、もちろんいい部分もあると思うけど、試合に出る出ないに関係なく、自分のやるべきことは変わらない」といたってクールに語った。それでも、クラブでの出場機会の有無に関係なく、スタメンから外さずに絶大な信頼を置いてくれたザッケローニ監督への感謝は強かったようだ。「監督は今までずっと僕をピッチに送り出してくれた。自分にはピッチ内でもピッチ外でもいろんな役割があるのかなとあらためて思いましたね」と本人もしみじみ話す。その恩に報いるためにも、2012年ラストマッチを勝利で締めくくりたかった。
37度を超える気温の中、始まったこの試合。長谷部は攻守のバランスを取りつつ、相手の鋭いカウンターの芽を摘むアグレッシブな守備を見せた。相手があまりボランチにプレスをかけてこなかったせいか、比較的楽にプレーできたという。後半にはチーム全体の運動量が低下する中、ドリブルで持ち上がって仕掛ける意識を前に出すなど、彼は最後まで走り抜いた。酷暑に加え、試合前日に1時間しか練習していない状況にもかかわらず、その一挙手一投足は9〜10月の代表戦よりは明らかに力強かった。これでスタメン落ちの危機は回避できた。キャプテンの積極的なパフォーマンスが戻ってきたことは、日本代表にも朗報といえる。
とはいえ、長谷部本人はボランチとしての感覚が鈍っていることを正直に打ち明ける。
「ボランチとサイドは全然違いますからね。サイドの選手はタッチラインを背にしてプレーするけど、真ん中は360度敵が来るわけだし、ボールをもらう前に常に周りを見ている必要がある。そのへんの感覚的な違いは今回の試合でも感じました。試合勘というか、ボランチ勘という意味ではやっぱり難しい。頭の切り替えはやっているつもりだけど、もっとやらないと。自分自身としては、クラブでボランチで勝負したいと思ってるけど、そのためにはすべての面を改善していかないといけないと思いましたね」
そんな発言ができるのも、出場機会を得たからこそ。長谷部は10月の欧州2連戦で必要不可欠だと実感した「個のレベルアップ」のスタートラインにようやく立てたのである。
理想とするチーム像はまだ遠い
その反面で「世界と戦うにあたって確固たる自信を持てるところまでは至っていない。結果を出しながら、もっと成長していくことが大事」と理想とするチーム像がまだまだ遠いことも明らかにした。
長谷部が求める1つのテーマは、若い世代の台頭だ。オマーン戦では清武弘嗣が代表12戦目で初ゴールを挙げ、酒井高徳も2試合目で決勝点をアシスト。酒井宏樹も序盤こそ試合勘の欠如と猛暑の影響でミスを繰り返したが、尻上がりにパフォーマンスを上げるなどポテンシャルの高さをうかがわせた。「今回はキヨ(清武)や高徳が結果を出してチームを活性化させてくれた。そういう流れが続けば、日本代表はもっと成長できる。ヨルダンで突破が決まれば、また新しいチャレンジもできるし、いろんな可能性があると思う」と彼もあらためて期待感をのぞかせた。
ブラジルW杯まであと1年半。ザックジャパンにはそれほど多くの時間は残されていない。長谷部自身も2013年1月には29歳。もはやベテランの域に差しかかっている。年齢を考えると劇的な成長は難しいかもしれないが、それでも個の力を上げることにチャレンジするしかない。そのうえでチームをけん引し、周りの成長を促す仕事も求められる。時に歯に衣着せぬ物言いで周りを鼓舞できるキャプテンには、これからもピッチ内外で奮闘してもらう必要があるだろう。
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