荒木絵里香「沙織が抜けたからこそ勝ちたい」=バレー女子東レと全日本の主将が語るVリーグ、ロンドン五輪

田中夕子

東レと全日本女子の主将を務める荒木。ロンドン五輪と17日に開幕するVリーグについて語ってくれた 【田中夕子】

 ロンドン五輪ではバレーボール全日本女子主将を務め、チームの28年ぶりの銅メダル獲得に貢献した荒木絵里香。「振り返る間もなかった」というわずかな時を経て、11月17日にはV・プレミアリーグ女子大会が開幕する。

 連覇を目指す東レアローズのキャプテンとして、エース・木村沙織(ワクフバンク/トルコ)の抜けたチームをどう引っ張っていくのか。ロンドン五輪までの道のり、そして来るVリーグへ向けた抱負を荒木選手に聞いた(取材日:10月21日)。

今までにはなかった感覚で楽しめている

――ロンドン五輪閉幕から2カ月余りが過ぎました。「振り返る間もない」とおっしゃっていましたが、間もなくVリーグも開幕します。現状はいかがですか?

 休みをいただいたので、その間にロンドンのことや、これからのこと、いろいろと考えるのかと思っていたのですが、休みは休みで何も考えず(笑)。気がついたらリーグの開幕が近付いている感じです。

(五輪が)終わった直後は、正直なところ「このまま気持ちを切り替えることはできないだろう」と思っていたんです。達成感とか、そういうものとは違うのですが、次を考えるのがちょっと難しかった。リーグが始まって、自分はどう戦うのだろうと不安がありましたが、いざチームに合流してみると、若手の頑張りも感じるし、自分自身の感じもすごく良かった。今までにはなかった感覚で楽しめています。

――今までにない感覚とは?

 アテネ五輪で代表を外れて、それからの4年は北京五輪に出ることを目標にやってきた時間でした。リーグ中はもちろんチームとして勝つことが目標ではあるけれど、その先には常に五輪がある。五輪のためにこのシーズンはどうしようとか、どうしなきゃダメだとか。まず個人、という発想だった気がします。北京からロンドンまでは(代表でも)キャプテンという立場を経験させてもらったので、それこそ常に頭の中は五輪のことばかりでした。

 今はロンドン五輪が終わって、自分の中では少し区切りがついたので、いい意味で目の前のこのシーズンに集中して、チーム状態が見られているように感じています。今年で東レに入って10年目のシーズンなので、今までとはまた違う責任、役割、使命があると思っているので、余計にいい加減な気持ちでプレーをしたくはないですね。

若手選手には可能性に挑戦してほしい

エースの木村(右)が抜けた東レだが、二見(左)ら成長を見せている若手の活躍が期待される 【坂本清】

――木村選手が移籍しました。チーム力の高い東レとはいえ、絶対的エースの不在は大きい。変化のシーズンになりそうですね

 沙織(木村)が抜けたことは間違いなく大きい。見る方々もそういう目で見るでしょうし、それ以上に自分たちが感じています。でも、だからこそ勝ちたいですよね。何が悔しいって「沙織がいないからダメだ」というのが一番嫌なわけですよ。沙織の不在は大きいし、「今までと同じようには勝てない」ということもよく分かっています。

 でもその分、1人ひとりが責任を持ってできているのを感じるし、特に昨年から出場経験が増えてきた峯村(沙紀)や小平(花織)、田代(佳奈美)や二見(梓)といった若手選手がアジアカップに出て刺激を受けて帰って来たことはプラス材料です。(監督の)菅野(幸一郎)さんも全員を出すと思うし、誰が出ても変わらない状況が作られつつあります。

 以前はチームがガタガタしていてまとまっていなくても、沙織の力で勝ててしまうゲームもすごく多かった。でも、今年はそれでは勝てないと思うから、今年の勝ち方を理解して戦えるように。若い子が不安を抱えてコートに入ることがないように、気持ちよくやらせてあげる環境を作りたいです。

――ロンドン五輪で女子バレーがメダルを取ったことで、Vリーグに対する注目度も高まるシーズンになるはずです。そういった状況だからこそ、これからを担う若手選手に感じ取ってほしいこと、期待する部分は?

 東レには「少しでもたくさん全日本選手を送り出したい」というチーム方針があり、実際に私を含め、全日本に選ばれた選手が複数います。私自身もアテネのころは同級生のカナ(大山加奈)や、後輩の沙織が選ばれて、いろいろな経験をしていることや、周囲からの注目度が増した中でプレーする姿を見ているだけでものすごく勉強になったし、刺激になりました。

 見に来る方々は「メダルを取った選手たちがいるから、これぐらいのプレーをするだろう」と高い期待を持って来ると思います。その中でどれだけ印象に残るような、「また見たい」と思われるようなプレーができるか。いい選手ばかりだし、ここまでバレーにすべてを注いで頑張ってきているわけだから、少しでも上まで行くべきだと思うし、その可能性に挑戦してほしいです。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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