20回目のファイナルを彩った若者たち=ナビスコカップ決勝 清水エスパルス1−2鹿島アントラーズ

宇都宮徹壱

試合を決めたのは、意外にも柴崎の2ゴール

柴崎(白)は2得点を挙げる活躍でチームを優勝に導いた 【写真は共同】

 後半に入ると鹿島のベンチは、次々と反撃への布石を打ってくる。ハーフタイムで興梠に代えてドゥトラを投入。さらに後半25分には、本田を下げて増田が左サイドに入り、柴崎は小笠原とコンビを組むことになった。

 この交代の効果は直後に現れた。カウンターから遠藤がドリブルで抜け出し、ドゥトラへパス。右サイドを駆け上がっていたドゥトラが中へ折り返し、これを受けた柴崎がペナルティーエリア内で倒されてPKを得る。てっきり小笠原が蹴るかと思ったが「相手に研究されている」(ジョルジーニョ監督)という理由で、キッカーには柴崎が選ばれた。この重要な局面で、高卒2年目の20歳にPKを託す。相当な重圧だったにもかかわらず、柴崎は冷静にGK林彰洋の逆を突いた。後半28分、鹿島先制。

 しかし鹿島のリードは4分しか続かなかった。今度は清水にPKが与えられたのである。コーナーキックの場面から、平岡が顔面を押さえて倒れ、青木剛にイエローカードが提示されるが、PKの理由がどうにも釈然としない。ともあれ、このチャンスを大前がきっちり決めて、すぐさま清水が同点に追いつく。その後、再びリードすべく鹿島が攻撃的な新井場を送り出すと(昌子と交代)、清水もアディショナルタイムに石毛を投入(八反田康平と交代)。結局スコアは動かず、3年連続の延長戦となった。

 そして延長前半3分、いきなり鹿島に決勝ゴールが生まれる。左サイドでスローインを受けた増田が逆サイドに大きく展開。これに西大伍が長い距離を走って追いつき、縦にボールを送ると、これを受けた柴崎がドリブルで一気に加速する。シュート直前、カルフィン・ヨン・ア・ピンが激しいプレッシャーをかけるが、今度は倒れることなく、柴崎は冷静にゴールに流し込んでみせた。今季1ゴールの柴崎が、ナビスコ決勝の大舞台で2ゴール。戦前は、大前と大迫勇也の対決ばかりに注目が集まっていたが、ふたを開けてみれば柴崎の独断場であった。

 やがて国立のスタンドは、勝利を確信した鹿島サポーターの歌声で埋め尽くされた。再び1点を追うことになった清水は、アンカーの村松をベンチに下げてFWの瀬沼優司を送り出し、前線に4人を並べて必死の反撃を見せる。だが、ここからが鹿島の真骨頂である。相手の猛攻を、ある時はがっちり受け止め、ある時は軽くいなし、刻一刻と残り時間を消化させてゆく。アディショナルタイム2分を経て、タイムアップ。鹿島がナビスコカップ連覇と16冠を達成し、ジョルジーニョ監督は97年の現役時代に続き、指揮官としてもトロフィーを掲げる快挙を成し遂げた。

例年以上に若さの輝きが印象的なファイナル

「覚えておいてほしいのは、われわれの選手の多くは新人、1年目だ。こういった試合で、国立の4万5000人の観客の前でプレーするのは簡単なことではない」

「このトロフィーへの旅路が、さらにわれわれを強くしてくれると思う。この先、また決勝に進みたいし、その時には何も手にせずに帰りたくないと思う」

 試合後のゴトビ監督の印象的なコメントを並べてみた。経験の乏しい若いメンバーながら決勝まで勝ち上がり、前回チャンピオンである鹿島をここまでリスペクトさせたことについては、十分に誇ってよいだろう。ただし現状の清水は、今はまだ成長過程のチームであり、ファイナルの一発勝負という条件においては、鹿島の試合巧者ぶりのほうが際立っていたのも事実である。

 一方の鹿島は、相手のキーマンである大前を昌子に徹底マークさせ、強固な守備ブロックで対抗した上で、切れ味鋭いカウンターを繰り出すという戦術を徹底させていた。特に昌子については「大前に何もさせないのが、お前の仕事。相手が水を飲んでいたら一緒に水を飲め。何なら同じ水を飲んでもいいぞ。それくらいの気持ちでやるように」と指揮官は直接指示したそうである。結果として鹿島は、PK以外での失点を相手に許すことなく、リーグ戦の不調を忘れさせるような戦いぶりで、今季最初のタイトルを手にした。

 かくして今年のナビスコカップは、鹿島の優勝で幕を閉じることとなった。しかし、平均年齢23歳の清水が見せた可能性もまた素晴らしく、例年以上に若さの輝きが印象的なファイナルであった。そして大会MVPに、20歳の柴崎が選ばれたのも実に象徴的であった(20回目の大会で、背番号20を付けた20歳の若者がMVPとなる。まるで狙ったかのような「20尽くし」ではないか!)。ナビスコカップが始まった92年に誕生した若者が、20周年となる今大会で目覚ましい活躍を見せたことに、あらためてこの大会が積み重ねてきた重みを実感する。と同時に、わが国のリーグカップが息の長いスポンサードの下、さらなる進化と発展を遂げることを願わずにはいられない。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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