20回目のファイナルを彩った若者たち=ナビスコカップ決勝 清水エスパルス1−2鹿島アントラーズ

宇都宮徹壱

20回目を迎えるナビスコカップの重みについて

鹿島が延長戦で清水を破り、連覇を達成。ジョルジーニョ監督や選手たちは喜びを爆発させた 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 そういえば沢口靖子は、いつからリッツのCMに出演しているのであろうか? ヤマザキナビスコカップが今年で20周年を迎えたことを知り、ふとそんなことを考えてしまった。ヤマザキナビスコ株式会社は、1970年設立という、食品会社としては比較的新しい企業であるが、継続性というものを重んじる社風があるのかもしれない。もちろん、リッツのCMで同じタレントを起用し続けることよりも、ナビスコカップという大会を20年にわたりサポートし続けてきたという事実の方が、はるかに重いわけだが。

 決勝戦の直前、Jリーグがナビスコカップについて「同一スポンサーによる最長のカップ戦」としてギネスブックに申請し、受理されたことがアナウンスされた。今後は審議の結果を待つことになるが、もし記録が認められることになれば、ナビスコカップは日本が世界に誇るリーグカップとして、国外にも広く知られることになるだろう。

 一例を挙げよう。フットボールの母国イングランドで、リーグカップがスタートしたのは1960年。スポンサー名が付いたのは82年からで、当初は「ミルクカップ」として4シーズン続いた。以後、「リトルウッズ・カップ」「ランブロウズ・カップ」「コカ・コーラ・カップ」「ワージントン・カップ」「カーリング・カップ」と名称を変えている。最も長く続いたのがカーリング・カップで、これが9シーズン。てっきり今もそう呼ばれていると思っていたら、今季からは「キャピタル・ワン・カップ」となっていた。こうして見ると、ナビスコ社が20年間にわたって日本のリーグカップを支えてきたことが、どれだけ偉大なことであったのか、容易に理解することができよう。

 Jリーグ開幕に先立つこと1年前の92年、10チームによってスタートしたナビスコカップ。この日のファイナルの舞台に立つ清水エスパルスと鹿島アントラーズの選手たちの多くが、当時は就学前の幼児だったことを思うと実に感慨深い(ニューヒーロー賞を獲得した清水の石毛秀樹は、まだ生まれてもいなかった)。余談ながら、今年はナビスコカップ20周年であり、なおかつ20回目の大会である。数が合わないのは、95年だけ日程の問題で開催されなかったからだ。そうした危機も乗り越えて、今日この日を迎えたのは、これまた感慨深いことである。

先発の平均年齢23歳の清水、ベンチが豪華な鹿島

 現時点でのリーグ戦の順位では、清水が4位、鹿島が13位。今季の対戦は3回あって、清水の2勝1敗となっている。とはいえカップ戦のファイナルは一発勝負。これらの数字が、どれだけ参考になるかは分からない。取り急ぎ、両チームの現状について確認しておこう。

 まずは16年ぶりのナビスコ優勝と、10年ぶりのタイトル獲得に燃える清水。こちらの懸念事項は、ダブルボランチの一角である杉山浩太が、準決勝で通算2枚目のイエローをもらい、累積で出場停止となってしまったことだ。その結果、村松大輔をアンカーに置く4−3−3の布陣を組んできた。攻撃陣では、右の大前元紀、左の高木俊幸による両サイドに注目。とりわけ大前は、今季12ゴールと好調を維持、ナビスコでもFC東京との準決勝第2戦でハットトリックを決めている。

 清水について、もうひとつ特筆すべきことは選手の年齢構成が若いことだ。スタメンの平均年齢は、ジャスト23歳。最年長はカルフィン・ヨン・ア・ピンと平岡康裕の26歳である。アフシン・ゴトビ監督が指揮を執って2年目。今季途中で小野伸二とアレックスが国外のクラブに移籍し、高原直泰も定位置を失うなど(この試合ではベンチにも入っていなかった)、チームの若返りの速度は尋常でない。その若さが、果たして吉と出るだろうか。

 一方、連覇と通算タイトル16冠を目指す鹿島はどうか。こちらは中盤でタクトを振るレナトがけがで欠場。ドゥトラとジュニーニョもベンチスタートとなり、ピッチ上はオール日本人となった。中盤の構成にも手が加えられ、このところ左サイドで起用されている興梠慎三が中央に、ボランチが定位置の柴崎岳が左サイドに、そして小笠原満男のパートナーには本田拓也が選ばれた。だが、それ以上に意外だったのが、左サイドバックが新井場徹ではなく、センターバックが本職の昌子源が起用されたことである。この起用は(鹿島から見て)左サイドで対面する大前を意識したものと見て間違いなさそうだ。

 スタメン以上に目を引くのが、ベンチの豪華さである。ブラジル人2名に加えて、中田浩二、増田誓志、本山雅志といった日本代表経験者がずらりと居並ぶ。戦前の予想を覆すスタメンの陣容と、豪華すぎるベンチの顔ぶれ。それらから導き出されるのは、ジョルジーニョ監督がゴトビ率いる清水を相当にリスペクトしているということであり、同時に、心からタイトルを渇望しているということである。

 実際、前半は攻める清水、それをはね返す鹿島という展開が続いた。清水は若さを担保とした旺盛な運動量で、序盤から激しいプレッシングとチェイシングで相手を圧倒し続ける。しかしシュート数は高木の2本のみ。それだけ鹿島守備陣のブロックは強固であった。今にして思えば、前半は清水に攻めさせておいて、相手の体力消耗を見計らってカウンターを仕掛けるというのが、鹿島のプランだったのかもしれない。前半はこれといったトピックスもなく、0−0で終了する。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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