メッシ・システムを模索し続けるアルゼンチン=2つの課題をいかに解決すべきか

何よりも重要な課題とは

結果は出しているものの課題は多い。サベーラはいかにして解決していくのか 【写真:Photogamma/アフロ】

 一方で新たな問題も生じている。このシステムでは守備時にサイドのスペースを埋める選手がいないため、以前のように高い位置でプレスをかけるのが難しくなったのである。この問題については、サベーラが攻撃参加に積極的ではない両サイドバック(SB)を起用していることもまた一因となっている。

 サベーラは前線に配置するアタッカーを増やしたことを理由に守備重視のSB、パブロ・サバレタとマルコス・ロホを起用しているが、彼らはこのシステム変更により生じた守備面の負担を補う役割を果たせていない。それは空中戦には強いが足元の技術に欠ける若いセンターバック(CB)、フェデリコ・フェルナンデスとエセキエル・ガライのコンビも同様だ。

 いずれにせよ、今や代表でもバルセロナと同様のパフォーマンスを見せるようになったメッシの才能、そして2位エクアドルに3ポイント、3位コロンビアに4ポイント差をつけ首位に立っているW杯南米予選の現状は、アルゼンチンが2013年を通して2つの課題に取り組む猶予を与えている。1つは守備時に数的不利な状況が生じるのを避け、かつ安定した最終ラインを構築すること。そしてもう1つの課題は、格下ばかりの南米予選では経験することがない、例えばほとんどボールを持たせてもらえないだろうスペインやドイツといった強豪と対戦する際、1人の天才と高い決定力を誇るアタッカー陣を擁するチームはどう戦うべきか、である。これは3度目の世界一を目指す上で何よりも重要な課題だ。

パストーレの起用がもたらすもの

 アルゼンチンがこれらの課題を解決するためには、これまで以上に戦術的な取り組みを行っていく必要がある。おそらくサベーラは、チームのプレーリズムを落ち着かせることができる選手として、ハビエル・パストーレの起用を検討しているはずだ。パストーレは中盤のオーガナイザーとしてボールポゼッションの向上に貢献できる選手であるが、一方で彼を起用するためには新たにシステムを変更する必要が生じてしまう。またマスチェラーノを最終ラインに下げ、エドゥアルド・ドミンゲスのような足元の技術の高い選手とセンターバックを組ませるという選択肢もある。

 W杯の出場権はほぼ手中に収めた今、もしサベーラが2013年のうちにこれらの課題を解決することができれば、アルゼンチンはブラジルで行われる本大会で優勝候補の一角に挙げられるチームとなるだろう。とはいえ、まだ来年の3月以降にはラパスでのボリビア戦やキトでのエクアドル戦といった、厳しい高地でのアウエー戦が控えている。またホセ・ペケルマン監督の下でポゼッションスタイルに磨きをかけたコロンビアをブエノスアイレスに迎える一戦では、ボール支配で後手に回るかもしれない。

 これらのテストさえ通過すれば、あとは攻守に最善のシステムを構築しつつ、引き続きメッシがのびのびとプレーできる環境を保っていくだけだ。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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