長友佑都、列強国との対戦で示した存在感=チャレンジ精神を忘れず、さらなる飛躍誓う

元川悦子

敵将も脱帽した圧倒的なパフォーマンス

フランス戦では決勝点をアシスト。長友(白)が後半に見せたダイナミックなパフォーマンスは圧巻だった 【Getty Images】

 しかしながら、フランス戦の前半はセーフティーに行かざるを得なかった。カリム・ベンゼマ、オリヴィエ・ジルー、ジェレミ・メネスの強力3トップと2列目が流動的に動き、両サイドバックも攻撃参加してくる相手にプレスをかけきれず、一気に押し込まれてしまったからだ。長友もほとんど前線に上がることなく守り一辺倒になっていた。

「前半は少し飲まれた感があったのは確か。相手が前から来ていて取られ方も悪かったので、自分が上がるのも難しいなと。そこは今までの経験や流れを見ながら我慢していた」と本人も辛抱の時間だったことは認めている。それでも「相手も少しスピード的に腰が引けているように見えたんで、後半は絶対に行けると思ってた」と話すように、残り45分間のどこかで勝負を懸けようと虎視眈々(こしたんたん)とタイミングを測ることだけは忘れなかった。

 その鋭い戦術眼が後半のダイナミックなパフォーマンスにつながる。途中出場の右SBクリストフ・ジャレを完ぺきに押し込み、決定的なチャンスを次々と演出する。その堂々たる姿は頼もしさを感じさせてくれた。「中央ではなかなか崩せなかったし、佑都のサイドで仕掛けて合わせるくらいしか迫力を出せなかった」と香川真司も語っていたが、長友の攻め上がりがなければ後半の巻き返しもありえなかった。そして最終的に香川の決勝点を見事にアシスト。フランスのディディエ・デシャン監督も「長友の攻めが素晴らしかった」と脱帽していたほどだ。

 一発目のアピールは成功した。が、本人は満足していなかった。「フランスには技術でやられたというよりフィジカルの違いで押し込まれた感覚がすごくあった。球際でもフィフティーフィフティーのボールが相手に渡ったりね。もう少し対等に渡り合えるフィジカルを持たないと世界のトップは狙えない。僕自身もすごい危機感を感じてますし、このままじゃW杯も厳しい」と発言。宿題をブラジル戦に持ち越すことになった。

 そのブラジルにはず抜けたパワーとスピードを誇るアタッカーのフッキがいる。明治大学在学中の長友が2008年春、FC東京でデビューした早々に対峙したのが、東京ヴェルディで大活躍していた怪物FWだった。彼にしつこくマークに行き、2度の警告で退場に追い込んだことは今や伝説だ。「彼を止めたことが話題になって日本代表に入れたくらい。すごく感謝してますね。今はお互い世界の舞台でやってるけど、もう一歩上のランクに行くためにも彼を止めて世界に名を広めたかった。『またこいつかよ』って思わせるくらいにね」と15日の公式練習後にはやる気満々に語っていた。

「あきらめずにチャレンジしていく」

 迎えたブラジル戦。冒頭にも記した通り、そのフッキを消すことはうまくいった。逆に相手が彼を警戒して懸命に守ってきたほど、マノ・メネーゼス監督は長友対策を徹底させていた。これだけ敵将にリスペクトされた彼だったが、1人の力ではサッカー王国のゴールラッシュを食い止めることも、相手を本気にさせる得点を奪うこともかなわなかった。日本が本当にW杯・ブラジル大会で8強以上に食い込みたいなら、個人とチーム力両方のさらなるレベルアップが必要不可欠だ。長友自身もそのことを身に染みて感じたという。

「まず僕個人としてフィジカルをもっと上げないとダメだなと思います。スピードやアジリティー(敏しょう性)の部分は伸びると思うし、スキルも高いレベルでやっていれば必ず上がる。そうやって個の力をつけていくしかない」と彼は語気を強める。パワーや強さの部分は外国人選手には追いつかないかもしれないが、速さや敏しょう性、運動量は確かに突き詰めていける。フランスとブラジルを見ていても、ボールを奪ってから攻めに転じる切り替えの速さが日本をはるかに上回っていた。一歩目で相手を振り切れれば、ゴールの確率は一気に上がる。そういうディテールに1人ひとりがこだわっていくべきだ。

 そして、長友がもう1つ強調するのが、代表としての国際経験値を上げること。「こういうレベルの試合をもっとやっていかないと難しい」とほぼ全選手が口をそろえたが、ザックジャパンが目指すコンパクトなサッカーがどのレベルまで通用するのかを判断する材料がこの2戦だけでは足りない。実際、スペインやドイツなど超一流国は毎月のようにFIFAランク上位国と戦っている。アジアにいる日本が同じことをやるのは容易ではないが、最終予選をできるだけ早く突破して、来年1年間は列強国と次々と相対するくらいの環境を用意できれば、成長の度合いも変わる。そんな理想的な状況を彼らは熱望している。

「日本が世界の強豪の仲間入りをするためには、今のスタイルを突き詰めていくことが大事。相手が強いから引いて守備ばかりしていたら本当の意味で強いチームにはなれない。僕はあきらめずにチャレンジしていきますよ」

 南アフリカ大会の生き証人であり、インテルという世界有数のビッグクラブでプレーする長友は、率先して代表をけん引する義務がある。1年半後の大舞台を視野に入れ、前進を加速させてほしいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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