誰もがたどりつけない存在となったメッシ=個の力がシステムを上回るのか

プレッシャーや疑問の目がなくなったメッシ

もしメッシ(右)がいなければ、試合結果が変わったかもしれない。それほどメッシのプレーは試合を決定づける影響力を持っていた 【写真:ロイター/アフロ】

 もしメッシがいなければ、この試合でアルゼンチンが勝つのは難しかったに違いない。だが、アルゼンチンにはメッシがいる。そして今やアルゼンチンのメッシは、バルセロナのメッシと同じくプレッシャーや疑問の目に苦しむことがなくなった。スタジアムでは彼の名前を叫ぶファンの歓声が響き渡り、あらゆるメディアが彼に対する称賛の言葉で溢れている。そんな中、秒読みとなった第一子の誕生を心待ちにしているメッシは、腕に腕章を巻き、望み通りの奔放なプレーをもってピッチを完全に支配しているのだ。

 メッシはあらゆる記録を塗り替え続けている。25歳にして公式戦の通算得点数は317ゴールを数え、アレハンドロ・サベーラ監督の就任以降は13試合の代表戦で13ゴールを挙げている。この試合ではムスレラの足元を通す先制点を流し込んだ上、アンドレア・ピルロが得意とする人壁の下を通す鮮やかな直接フリーキックを流し込んだ。2点目のシーンではディ・マリアへの素晴らしいパスでアグエロが決めた追加点の起点となっている。

 今やメッシは誰もがたどりつけない存在となった。彼1人の存在により、チームとして高い完成度を誇る強豪国とアルゼンチンとの実力差が埋まってしまう可能性すらありそうだ。

 しかし、いまだにアルゼンチンは課題が山積みだ。中盤から前線にかけては豊富なタレントをそろえる一方、駒不足の最終ラインはテクニックと安定感に欠ける。攻撃陣にしても、アウエーではホームと同じような攻撃を見せられていない。チームは多くの問題を抱え、プレー哲学すら一貫していないにもかかわらず、メッシのパフォーマンスは右肩上がりに向上しているのである。

 奇妙なことに、これまでアルゼンチンを指揮してきた指導者たちはスペインや現在のコロンビアを模範とする一方、メッシを生かすべくピッチを広く使い、ボールポゼッションを重視して攻撃の多様性を確保するようなシステムを模索してこなかった。

 その理由はおそらく、競争を絶やさないためなのだろう。もしメッシが技術、戦術、プレー哲学といったあらゆる側面で万全のサポートを得られるチームができてしまったら、もはや他のチームは2位の座を争うことしかできなくなるからだ。

<了>

(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント