“不人気”なブラジル代表の現在地=日本戦はチームの基盤を固める重要な試合に

大野美夏

カカの帰還

南アフリカW杯以来の代表復帰となったカカ。イラク戦ではゴールも決めた 【写真:AP/アフロ】

 国民からのバックアップが得られるようなチーム作りのためには軸となる選手が必要となる。これまでに、ロナウジーニョを招集することもあったが、本来ならばガンソこそが新生セレソンの軸になるはずだった。しかし、肝心な時にけがを繰り返すなど戦線離脱を余儀なくされ、さらには、所属していたサントスとの確執から、やっとサンパウロに新天地を求めたところであり、まだまだ本調子には程遠い。

 そこで、イラク、日本との親善試合でメネーゼス監督は、大物ベテラン選手を呼び戻すことにした。2年余りぶりのカカの帰還だ(11カ月前にも招集されながらもけがで離脱)。メネーゼス監督は「レアル・マドリーで一生懸命練習している。その様子をずっと観察してきて努力を評価した。セレソンに戻ってきっといいプレーをしてくれると確信した」と自信を持って招集したことに対して、周囲からは「練習を一生懸命やって、練習試合で結果を出せばセレソンに呼ばれるのか?」と疑問の声も上がった。けが、リハビリ、その後はモリーニョ監督の構想外で今シーズンの公式戦出場試合数は0(招集された時点)。レアル・マドリーでの活躍から遠ざかっているのだから無理もないだろう。それでも、カカとネイマールの初顔合わせが実現することに世論は沸いた。

4−2−4という新戦術の採用

 9月の中国戦で8−0の快勝を収めた時、メネーゼス監督は、新たな戦術を採用した。その戦術は、4−2−4で、固定の1トップを置かず4人の攻撃陣が流動的にポジションを入れ替わりながらトップ下、トップ、両サイドから攻撃を仕掛けることだった。

 イラク戦では、最前列の左にネイマール、右にフッキ。トップ下の右にオスカル、左にカカとポジションをとった。このところのブラジルは、中盤が中だるみしていたが、カカの強みであるゴールに向かって縦に動くスピードが生かされ、コンパクトさがでてきた。それにより中盤でボールを持ってから、ゴールまでのスピードがアップし、オスカルの2点やカカの復帰弾を含む6得点でイラクに快勝した。

 カカはネイマール、オスカルと絡みつつアシスト、ゴールと大活躍したことで、セレソン復帰に合格点が与えられた。現時点では「まだW杯のことまで考えられない」と言う30歳のカカだが、この先、さらにカカの経験とオスカルのインテリジェンスが絶妙に絡み合えば、W杯優勝に向けたチームの基盤になるだろう。

 どうにか攻撃のカルテットに明るい兆しが見えてきたセレソン。攻撃陣はレアンドロ・ダミアン、今回けがで不在のパトと層は厚い。守備陣に関しては、ダニエウ・アウベス、チアゴ・シウバ、ダビド・ルイス、マルセロとベースが決まっており、今のところ安定感をキープしている。しかし、イラク、日本戦にはダニエウ・アウベスがけがで離脱したところにアドリアーノが入る。

 それに引き換え不安材料はGKの世代交代とボランチだ。これまでに、12人のGKをテストしてきたが、いまだにジュリオ・セーザルに代わる新しい守護神が見つかっていない。今回のボランチはパウリーニョとラミレスを招集している。ラミレスは攻撃もできるボランチで経験も豊富だが、攻守の切り替えのキーポイントとなるボランチには、よりレベルの高いプレーが必要なため、さらなるタレントの登場を待ちたいところだ。

 致命的な人材不足はないとは言え、このところのブラジルに欠けているものが“リーダー”の不在である。メネーゼス監督は「リーダーとは忍耐がいる。常にみんなのお手本になり、多くの問題を背負うだけの人間性も必要だ」と話す。そして、そのリーダー候補としてカカを招集したのかもしれない。カカがテクニックでチームに貢献するだけでなく、リーダーとして統率力を発揮してくれれば、チームにまとまりがでてくることだろう。

 ネイマールのスター性、オスカル、ルーカスの将来性とポジティブな材料が多いにも関わらず国民のバックアップが得られないセレソンに、応援せずにいられない魅力が育つことが期待される。

日本はもう格下ではない

 五輪後の3試合は無敗をキープしているブラジルだが、中国、イラクという格下相手に快勝を収めただけでは、本当の現在地は分からない。W杯予選を戦っておらず、タイトルも取っていないためFIFAランキングはベスト10(14位)から脱落してしまった。6−0の圧勝を収めたイラク戦の翌日の新聞には、小さなサンドバックをぼろぼろにしたボクサー・カナリアが「もっと大きなバッグを用意してくれ!」と言い放っている風刺漫画が掲載されていた。イラク相手では、セレソンの強さを測れないということだ。

 日本に対しては、イラクのように簡単な試合にはならないだろうと言われている。メネーゼス監督も日本に一目置き、イラク戦終了後、チームとは別行動でフランスに向かい、フランスにアウエーで勝利した日本を目の当たりにした。

 新聞には「フランス相手に勝利をした日本は手ごわい相手だ。さすが2月から無敗中だけあり、守備陣の優位性、安定感がその強さであることが証明された」と書かれ、以前では考えられないリスペクトをしており、格下などという扱いはもうない。

 日本で4シーズンプレーしたフッキは、「以前の日本サッカーと言えば、体力にモノを言わせて走るだけというイメージがあったが、ここ数年で日本は技術的に高い進歩を遂げている。日本でプレーした経験から日本の選手はクオリティーが高いことを知っているし、フランス戦の勝利がそれを物語っている」と日本サッカーの成長ぶりについて話し、チームメイトに注意を促した。

 日本戦後、4試合をこなすとコンフェデレーションズカップの招集リストが発表される。これまで多くの選手をテストしてきたが、本気でW杯優勝を見据え、チームの基盤を固める時期がやって来る。そういう意味で、この日本戦は監督の目指すサッカーが正しいかどうか、ブラジルの現在地を知る格好の舞台となるだろう。

<了>

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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