歴史的一戦で証明された今野泰幸の重要性=攻守にフル稼働、独走ドリブルで決勝点演出
得点に絡むプレーにも長けている
耐える展開が続いた今野を中心とした守備陣は最後までフランスの猛攻を凌ぎきった 【写真:ロイター/アフロ】
「ちょっとフランスの名前にビビったというか、飲まれたというか、そういうのがありましたね。せっかくボールを奪っても相手に渡してしまったり、縦に急いでまた取られたりとマイボールになる時間が短くて、少し引いてしまった。ベンゼマは中にも入ってくるし、キープ力もあるから、サイドで持たれた時になかなか奪いに行けなかった。前半はかなりきつかったですね」と本人も言う。前半20分くらいまでは気後れしていたこともあり、不完全燃焼感はぬぐえなかった。
それでも今野はず抜けた状況判断力、対人プレーの強さを備えた選手だ。時間が経過するにつれてジルーやベンゼマのような驚異的なフィジカルを誇る選手にも厳しく寄せることができるようになった。球際の激しさも取り戻し、吉田との連係も目に見えてよくなった。「前半から相手が結構ルーズなのは分かっていたし、ハーフタイムにみんなで『もっと回せる』と話し合った。完全に落ち着いたのは後半から」と言うように、確かに後半には攻撃の起点になるパス出しの回数も増えた。相手の体力が落ちたのも幸いし、彼自身のプレーにも余裕が感じられるようになった。
こうした尻上がりのパフォーマンスの結末が、冒頭の決勝点のおぜん立てだ。今野といえばボールを奪う能力や1対1の強さに目が行きがちだが、長年のボランチ経験で磨いた大胆な攻め上がりと得点に絡むプレーにも長けている。2003年ワールドユース(UAE)のラウンド16・韓国戦では延長戦で豪快なドリブル突破から坂田大輔の決勝点をアシストしているし、2005年J1最終節でもセレッソ大阪の優勝を阻止する強烈なゴールを奪っている。「なぜ今野がここにいるのか」と人々を驚かせる攻撃面の嗅覚(きゅうかく)をあらためて示したことも、フランス戦の収穫だったといえる。
「試合を振り返ってよかったと思うのは失点ゼロだったこと。それができたのは、いい距離感を保てたからじゃないかな。みんな運動量が多くてカバーに入る選手が常にいたし、1対1になることがほぼなかった。ただ、世界との距離は1試合やっただけじゃ、分からない。こういう試合を何試合もやりたいとすごく感じましたね」と今野は世界への渇望をより一層、強めた様子だった。
より重要なゲームになるブラジル戦
フランスと対峙(たいじ)して「ある程度はやれる」という手ごたえを得た今野にとって、16日のブラジル戦はより重要なゲームになる。世界基準に慣れた次こそ、世界トップと自分の距離を測る絶好の機会だ。彼自身の試金石になるといっても過言ではない。ブラジルにはかつてJの舞台を席巻したフッキを筆頭に、ネイマール、レアンドロ・ダミアン、カカら強烈な個の力を誇るアタッカーがズラリと並ぶ。彼らをリスペクトしすぎて受けに回ったら、フランス戦と同じような防戦一方の序盤を余儀なくされるだろう。それを避けるために何をすべきか。まずはメンタルとフィジカルの両面をしっかりと整えることが肝要だが、頭を使ったプレーも必要不可欠だ。いずれにせよ、次なる大一番では「今野泰幸の進化形」をぜひとも見せてほしいものだ。
<了>