デシャンのレ・ブルーはいまだ未知数=日本とのテストマッチを控えたフランスの現状

木村かや子

デシャン監督の率いるレ・ブルーは、デビュー戦こそ酷評されたものの、試合ごとに進歩を見せている 【Getty Images】

 10月12日に日本代表を迎え撃つディディエ・デシャンのフランス代表は、かつてその名を世界に知らしめた10年余り前の強いレ・ブルー(フランス代表の愛称)ではない。実際、ここ15年で最も潜在能力の低いチームと言われたことさえあるのだが、結成されてまだ3試合ということもあり、フランス人の目から見ても、その真の力はいまだ未知数だ。しかし、不安を煽るスタートぶりに国民が頭を抱えた直後、思わぬ希望の光が差し始めた。ワールドカップ(W杯)予選2試合を勝利で終えた彼らは、未完成ながら、毎試合、一歩一歩、進歩しつつあるように見える。

ブランの続編ではなかった、デシャンの代表

 この夏、フランス代表監督がローラン・ブランからディディエ・デシャンに代わったとき、続投しないというブランの決断を嘆いていた者たちは、「かつての代表仲間のデシャンなら、ブランが育てた良いものを受け継いでくれるはず」とささやいていた。しかし実際には、彼らの思惑どおりにはいかなかったようである。もちろん、同じ選手も多く残ってはいるが、デシャンの就任で特に守備部門のメンバーが大きく入れ替わり、チームの顔がかなり変わったのだ。

 実際、デシャンの代表監督デビュー戦となったウルグアイ戦(0−0)でのフランスは、ブラン時代から一歩後退したように見えていた。選手が変わったせいか、ピッチ上でのチームワークがちぐはぐになり、ボールは保持していても、攻撃の動きが一向に前に進まないという昔の悪癖が再発。皆が期待していた、カリム・ベンゼマとオリビエ・ジルーのアタック・ペアが初めて実現した試合だったが、パスのかわし合いは相変わらずベンゼマとフランク・リベリーに偏り、ジルーとベンゼマの連係はほぼ皆無だった。

 おかげで、「退屈」「ここ15年のワースト3に入る試合」と酷評され、幸先悪しという印象を残したのだが、ディフェンス面では良い兆しもあった。デシャンは、ブランが好んだフィリップ・メクセス、アディル・ラミのセンターバック(CB)ペアの代わりに、ママドゥ・サコ、ヤンガ・エムビワを起用した。そしてこの若い2人が、思いのほか堅固な働きを見せたのだ。

 自身、クリエーティブなDFだったブランは、ボールを奪ってからの展開力があるCBを好んだが、デシャンは、体を張った対決に強く、機敏で、何より守備が堅固であることをCBに求めた。「いいDFとは何か? 1対1と空中戦に強く、俊敏に状況に対処できること――それが、わたしが重視している点だ。さらに35メートルのロング・アシストなどできればそれに越したことはないが、第一に必要なのは守備能力であり、ボールを素早く前に渡せることだ。後方で無駄にする時間が少なければ少ないほど、中盤に時間が与えられ、前衛はいっそう時間的余裕を持つことができる」とデシャンは言う。

 マルセイユ監督時代にも身体能力の高い黒人DFを好んでいたデシャン。右サイドの第一候補は、変わらずマチュー・ドビュッシーだが、左にはモナコ時代の愛弟子だった、パトリス・エブラを起用している。そして、その前のボランチの位置には、リールのリオ・マブーバを抜てきした。ボルドー時代には神童扱いされ、20歳でA代表に初招集されたマブーバだったが、以降は定着できず。07年の親善試合を最後に代表から遠ざかっていたのだが、ここ数年は、リールのサクセス・ストーリーの中で、説得力のある仕事ぶりを見せるようになっていた。

 マブーバは当たりの強い肉体派というより、技術力や、見つけた穴を埋めてチームのバランスをとることに秀でた、どちらかというと知的なボランチだ。ちなみにザイール(現コンゴ)代表選手だった父を持つ彼は、母の母国アンゴラの市民戦争の最中に、フランスに渡ろうと国際水域を漂っていた難民のボート上で生まれた過去を持つ。そのため出生記録に国籍はなく、出生地は『海の上』となっているそうで、彼がフランス国籍を得たのは、04年と比較的遅かった。

驚きの発見品ヤンガ・エムビワ

 次の試合は、対フィンランドのW杯予選という“本番”だったが、デシャンは上記の守備陣は動かさず、中盤に、故障から回復したヨアン・カバイェとアブ・ディアビーを追加。ディアビーはブラン時代から、攻守に貴重な駒と見られていたのだが、長い故障で招集不可能だった選手である。そしてこの試合では、このディアビーが、ベンゼマとのワンツーからDFの合間を縫って自ら攻め上がり、この試合唯一のゴールを決めていた。

 フィンランドがゴール前に結集して守りを固めていたこともあり、その後には、GKが危うく防いだカバイェのミドルシュートを除き、これといった決定機はなかった。しかし、若いCBペアがしっかり守りきったおかげで、勝ち点3は死守。特にヤンガ・エムビワは、A代表での初の公式戦とは思えない冷静さで、きっちりとゴール前を守った。彼より代表経験のあるサコの方は、急襲を受けると慌てたり、ポジショニングミスをしたりすることもあるのだが、ユース代表時代から知り合う仲であるだけに、2人の息は合っている。この試合での新CBペアの働きぶりに確信を得た様子のデシャンは、次のベラルーシ戦でもペアを変えず、ほぼこの2人をレギュラーCBに決めたように見える。

 もっともヤンガ・エムビワは累積警告のために、重要な16日の対スペイン戦に出場できない。このような状況では、日本戦は、スペイン戦の予行練習をするのに最適の機会だ。そのため、スペイン戦に出るはずのペア、たとえば、ユーロ(欧州選手権)でいいプレーを見せたローラン・コシエルニ、あるいはラミとサコのコンビネーションを磨く場になると予想していたのだが、少なくとも試合の一部で、サコ&ヤンガ・エムビワが登場する可能性はある。というのもデシャンは、スペイン戦に出られないにもかかわらずヤンガ・エムビワを招集し、その理由を「日本戦には出られるし、チームを固める必要があるため」と説明していたのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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