円熟の域に達したクラシコ=これまでと一体何が違うのか

清水英斗

完成されたレアルのバルセロナ対策

シーズン3年目のクラシコでバルセロナ対策を完成させたモリーニョ 【Getty Images】

 そして昨シーズン、レアル・マドリーはモリーニョが開発したアンカーシステムにも見切りをつけ、本来のチームの形である4−2−3−1に戻す。今回のクラシコと同じ形だ。

 ここで重要なのは、アンカーという専門職を置かなくても、ダブルボランチのサミ・ケディラとシャビ・アロンソの位置で数的不利を起こさないようにオーガナイズすることだ。ポイントは2つある。

1.前線のメスト・エジルやベンゼマの守備への貢献度を増やす

 エジルはもともと、攻撃から守備への切り替えが遅く、攻め残りする傾向が強い選手だった。しかし、アンカーシステムによってクラシコのスタメンを外されたことが効いたのか、特にクラシコに関しては精力的なプレッシングで中盤の守備を助ける献身的な姿が目立つ。彼の働きにより、レアル・マドリーは攻撃力を残しつつ、バルセロナの中央突破を防ぐチームへと一歩一歩成長している。

2.サイドの守備を可能な限り、サイドの選手のみで完結させる

 ケディラやシャビ・アロンソがサイドの守備のカバーリングに回る羽目になると、中央に数的不利が生まれ、メッシやアンドレス・イニエスタらに突破されるスペースができてしまう。

 とはいえ、C・ロナウドのような選手を常にサイドの守備に下がらせることは、攻撃力の大幅なダウンを意味する。そこでレアル・マドリーが用いたのが、マンツーマンとゾーンをサイドごとに使い分けるオーガナイズだ。右サイドはサイドバックのアルバロ・アルベロアが自分のマーカー(イニエスタやセスク・ファブレガス)を積極的に中盤まで追いかけ、その分、空いたスペースに走り込もうとするジョルディ・アルバに対してはアンヘル・ディ・マリアがマンツーマンで付いて下がる。一方、左サイドはC・ロナウドの守備の負担を軽くし、常に下がることを義務付けない分、サイドバックのマルセロはアルベロアのようにマーカーを追い過ぎず、ディフェンスラインに残ってスペースを守る意識を強くする。これはレアル・マドリーの武器を生かしつつ、バルセロナの武器を可能な限り抑えるための最大公約数的な戦術と言えるだろう。

 前線のプレスバックとサイドでの守備の完結。度重なるバルセロナとの対戦経験により、レアル・マドリーは一つの答えにたどり着いた。これで中央の守備が安定したレアル・マドリーを、バルセロナは簡単には崩せなくなる。

 ところが、そこで大人しく引き下がらないのがバルセロナだ。例えば1点目の得点シーンのように、マルセロの周囲に数的有利を作り、サイドを突破する。あるいはアルバが一瞬の動き出しでマンツーマンのディ・マリアを振り切ってスペースへ走り抜ける。つまり、守備が安定している中央突破を避け、サイド突破を攻撃のベースに置くというわけだ。

 3年目を迎えたレアル・マドリーの中央の守備力の向上も見事だったが、それをさらに上回り、サイド攻撃とメッシのFKを含む2ゴールを生み出したバルセロナも見事だった。

 今シーズンのバルセロナは、中央を警戒する相手をサイドから攻めたり、シンプルなクロスボールやロングボールを多く使うなど、ビラノバが加える新たなバルセロナ色も徐々に見え始めている。

 バルセロナのサイド攻撃からの得点は、今後のクラシコの注目点になりそうだ。

新たな可能性を見いだしたクラシコ

 正直、戦前に想像していたよりもはるかに面白い試合を見ることができた、というのが率直な感想だ。

 バルセロナはリーグ開幕から6連勝中、さらにチャンピオンズリーグでも全勝と、結果だけを見れば絶好調のように思えるが、その内容にはギリギリの辛勝も少なくない。新監督のビラノバ自ら、「まだバルサは100パーセントではない」と語っていた。

 一方のレアル・マドリーはより深刻で、C・ロナウドの「悲しみ」発言、モリーニョ監督とセルヒオ・ラモスの確執がうわさにあがるなど内紛が絶えず、司令塔のエジルも調子が上がらない状態が続いていた。すでにリーガでは首位バルセロナに勝ち点8の差をつけられている。

 まだまだ本調子とは言えない両チームであることは間違いない。しかしそのような状況の中でも、スペイン全土で視聴率50パーセント以上をたたき出す「クラシコ」はやはり格別な味わいだった。昨シーズンからメンバーが大きく変わっていないことで、試合前は閉塞(へいそく)感のようなものを感じていたが、試合が終わった今は新たな可能性を見いだすこともできている。

<了>

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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