世界で得た経験をこれからの糧に<後編>=元日本代表 広山望インタビュー

元川悦子

サッカーをする子どもにとって自立心はすごく大切

今後は指導者を目指し、スペインに渡る予定。代理人やマネジメントにも興味はあったようだが、「ピッチから離れるイメージは今も持てない」と話す 【スポーツナビ】

――日本の子どもたちのスキルは格段に上がってるけど、メンタル面の逞しさがなくなっているという話も聞かれます

 僕はまだ子どもたちを実際に教えた経験がほとんどないので何とも言えないところがあるけど、今の日本サッカー界は教える側もすごく勉強してるから、教わる量も多い。僕らのころは教わる量が少なかった分、自分で考えなきゃいけなかったんだと思います。それでも世代別代表が続けて世界大会に出られないわけでもないし、世界で活躍する選手もこれだけ出てきているんだから、そんなに心配することはないでしょうね。

 ただ、自立心があって、自分で考えることができる選手でないと、どんどん時間をロスしてしまう。プレーの判断にしても進路の決断にしてもそう。中高生だったら、できるだけ早く大人にならないといけないですよね。

 僕自身は早く父を亡くして、中学生のころからどういう道を進むか決めないといけなかったし、習志野高の本田裕一郎先生(現流通経済大柏高)も僕の意思を尊重してくれた。最初に入ったジェフユナイテッド市原でマスロバルやハシェックといった素晴らしい選手から衝撃を受け、サッカー選手としての素晴らしさを実感できたのも、自分がある程度、自立した状態だったからだと思うんです。そういうトップレベルの人と一緒にやれたから、海外にチャレンジしたいという気持ちもわいてきた。自立心というのは、サッカーをする子どもにとってはすごく大切なものです。

――米国では大卒の若い選手でも人間的に大人だったと話していました

 そうなんです。リッチモンドのアカデミーの練習に参加して一番びっくりしたのが、監督が「このプレーはどうだ?」と質問した時、全員が競い合って手を挙げていたこと。間違ったり、的外れなことを言う子もいるけど、監督もちゃんと聞いて「それもいいアイデアだ」とコミュニケーションを取るんです。日本の子どもなら誰が手を挙げるかをまず見るけど、アメリカの子どもは自分の考えをストレートに発表することにストレスを感じてない。僕が一緒にプレーした大卒の選手も、人の言うことを認めるのに慣れていたから、やり取りがスムーズだった。それはすごく面白かったし、自分たちに欠けていることだと気づかされました。日本でそういう訓練をするのは簡単じゃないけど、サッカー界だけでもオープンにしていきたいですね。こういう経験も自分の判断材料として生かしたいと思ってます。

幅広く学び、いずれは育成年代を指導したい

――多彩な経験を糧に指導者に転身するわけですけど、まずスペインではどんなことを学びたいですか?

 まだゼロの状態なので、幅広く学びたいですね。育成の仕組みは、フランスやポルトガル、南米でも見てきたけど、スペインは世界の最先端です。普及も含めて目の当たりにできるのはうれしいです。実際に結果を出している国だし、日本は体格や戦術面を含めて取り入れられることが多い。それに、技術や考えるスピードを重視している部分も参考になるでしょう。

 また、スペインは地域によっても志向してるスタイルが違うため、いろんな選択肢を目の当たりにできるのもいいですね。自分が指導者として新たなスタンダードを作るにあたって、スペインからスタートできるのはいいチャンスだと思っています。そこで学んだものが武器になるか、障害になるかは分からないけど、飛び込んでみようと思います。

――いずれはどの年代の指導をやってみたいんですか?

 今の時点で具体的なイメージはないですが、育成年代の代表は率いてみたいという気持ちはあります。僕自身、U−20日本代表とかで戦ってきて、山本昌邦さんのような指導者の影響は大きかったですからね。僕らのころはそこまでトレセンも活発じゃなかったし、習志野高から一歩違う世界に出て、「世界で戦おう」と言われたのはやっぱりインパクトがありました。ビラス・ボアス(現トッテナム監督)も同い年だし、同世代の優れた指導者が増えているのは刺激になる。だから、自分も前向きに勉強していきたいと思っています。

――広山さんなら世界とのパイプを生かして、代理人やマネジメントの道に進む選択肢もあったと思うんですけど、指導者を選んだ理由は?

 興味はありましたけど、サッカーで一番面白いのは、プレーや選手に魅力が詰まってるピッチの上です。マネーゲームとか、CLに出場できるクラブを作るというのも夢や名誉のあることだと思いますが、やはりピッチで起きていることが一番魅力的だし、僕のサッカーの原点です。そこから離れるイメージは今も持てないですね。

 もちろん日本サッカーの環境を整備したり、レベルアップのために力を尽くすこともしたいです。しかし、今は選手をやめたばかりで勉強したいことがたくさんあります。まずは自分を大きく成長させて、いずれサッカー界に恩返しができればいいと思います。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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