パ・リーグ新人王争いの本命は“昭和の香りのする男”

中島大輔

藤岡、十亀らが苦しむ中で結果を残すオリックス・川端

ヒーローインタビューでファンの声援に応えるオリックス・川端(右) 【写真は共同】

 開幕前の予想に反し、パ・リーグの新人王争いが意外な展開になっている。本命視された藤岡貴裕(千葉ロッテ)は4月に先発として3勝を挙げたものの、5月以降に勝ち星を伸ばせなかった。うなりをあげるような豪速球が持ち味の十亀剣(埼玉西武)は開幕ローテーション入りを期待されたものの、5月末から中継ぎとして起用されている。
 シーズンが残り20試合近くになり、最有力視されるのは2011年のドラフト会議でパ・リーグ6球団から指名された35人(育成を除く)のうち、最後に名前を呼ばれた男だ。
 オリックス・バファローズのドラフト8位、川端崇義。27歳、右打ちの外野手だ。4月21日の北海道日本ハム戦からスタメンで起用され、リーグ8位の打率2割8分8厘を記録している(今季のデータはすべて9月12日時点)。
「“昭和の香り”がするよね」。そう懐かしむのが、オリックスの小川博文打撃コーチだ。

「職人気質の方」。JR東日本時代の後輩である十亀はそう形容する。
 ドラフト前に大きな注目を集めたわけではないが、川端の球歴は輝かしい。東海大相模高校を卒業し、国際武道大学では名将・岩井美樹監督の下で腕を磨いて2度の首位打者を獲得した。JR東日本では1年目からレギュラーとなり、11年には1番打者としてチームの4年ぶりの都市対抗野球優勝に貢献している。

「ボールの捉え方が良いよね。当てるだけではなく、コンパクトに振れている」
 球界の“目利き”として知られ、広島でスカウト部長を務める苑田聡彦による社会人時代の評だ。走攻守の三拍子を兼ね備えると評価され、ずっとプロ志望だった川端は昨年、社会人で5年間を過ごした後にようやく夢をかなえた。

新井2軍監督らの指導で「プロとアマの違い」を乗り越える

「一番良いところは思い切りの良さ。結果を怖がらないでスイングできる」
 教え子の活躍に目を細める小川コーチは、川端の活躍の要因について「プロとアマの違い」を乗り越えたことを挙げる。

 春季キャンプでは社会人時代に磨きをかけた右打ち、左方向への長打力をアピールして開幕1軍入りをつかんだものの、打席でのチャンスを与えられないまま4月2日に登録抹消された。だが、川端は2軍で過ごしたわずかな期間で打撃修正を図った。
 新井宏昌2軍監督に指摘されたのが、バットスイングの軌道だ。川端が言う。
「ドアスイングになっていたので、下から振る感じでインサイドアウトにするようにと言われて練習しました」
 スイングの基本とされるインサイドアウトとは、バットを内側から振り始めることだ。
これができれば脇が開かなくなり、パワーをしっかり伝えることができる。

 この打ち方を川端が習得できた背景には、春季キャンプから指導してきた小川コーチが勧めた練習法もある。141.7〜148.8グラムの試合球だけでなく、500グラムもある重いボールを1回5球、5、6セットを打つように話した。

「重いボールを打つと自然に脇が締まる。体全体で打たないと、手首を壊すからね。川端はインサイドアウトをできるようになったことで、スイング中のムダな動きがなくなった。ただ思い切り振るのではなく、切れ味良く振れるようになった。それがプロとアマの違い。ヘッドスピードが出るようになった」

 新井2軍監督の指摘と小川コーチの練習法でインサイドアウトを身につけた川端は、4月21日に1軍に再登録されるとヒットを重ねていく。9月3日の東北楽天戦では、新人としては球団史上3人目のシーズン100安打を記録した。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント