IDでもっと便利に新規取得

ログイン

オランダ代表の意義ある2つの快勝劇
“無名集団”が見せた成長と最高のスタート

将来に向けて時間を稼ぐための勝利

オランダはハンガリーに4−1で勝利。若いチームは試合の中で成長を見せた
オランダはハンガリーに4−1で勝利。若いチームは試合の中で成長を見せた【写真:VI Images/アフロ】

 9月11日に行われたワールドカップ(W杯)・ブラジル大会の欧州予選、オランダはハンガリーを敵地ブダペストで下した。スコアは4−1。オランダは、2011年3月25日にもこのプスカシュ・フェレンツスタジアムで4−0という大勝を記録している。しかし、オランダにとってこの2つの快勝の意味は大きく違った。


 1年半前のオランダは絶好調だった。グラウンダーのパスを回すにはふさわしくないピッチだったが、それでも彼らは恐れることなくポジションチェンジを繰り返しながら高速パスを繰り出した。スナイデルのゲームメーク、ファン・デル・ファールトの即興、アフェライの力強さ、カイトの献身……。わずかなすきもない素晴らしい内容の勝利にオランダ人が歓喜した。しかし、今から思えばこの時が彼らのピークだった。


 今回の“4−1”は将来に向けて時間を稼ぐための勝利だった。前回のハンガリー戦に引き続き先発として出場したのはスナイデルとファン・ペルシだけ。当時、エールディビジ所属の先発選手はDFファン・デル・ウィール(アヤックス、現パリ・サンジェルマン=PSG)、ピータース(PSV)の2人しかいなかった。それが今回、一気に7人へ増えた。スター軍団オランダは、無名集団へと姿を変えたのだ。


 DF、MF、FW、どのラインをとってもオランダの経験不足は否めない。1年半前の4バックはファン・デル・ウィール、ハイティンハ、マタイセン、ピータースだった。2010年W杯準優勝のメンバーからファン・ブロンコルストが抜けて、ピータースが加わっただけの違いである。それがこの日のオランダはファン・ライン(代表3回目)、フラール(同11回目)、インディ(同3回目)、ウィレムス(同8回目)というバックラインを敷いたのだ。相手のことを気にせず威風堂々、自らの力を出し切る王様サッカーを展開したのが1年半前なら、今回は相手の不出来に救われながら、試合の中でどんどんチームが成長していった末の快勝だった。

スター軍団の分解と若手による再構築

 ユーロ(欧州選手権)におけるオランダはピークを過ぎており、3戦全敗という無惨な結果に終わった。内容もまたひどく、スター軍団は空中分解した。サポーターにとっては、負けても一緒に泣いて悲しみを分かち合うだけの価値すらないチームだった。だからこそ、若返りと結果を両立するのが得意なファン・ハールの監督就任をオランダ人は支持した。


 9月8日、オランダはW杯予選の最大のライバルと目されるトルコに2−0と快勝した。前半の内容はとても褒められるものではなかったが、若返りというプロセスを考えれば想像できた展開でもあった。しかし、サッカーにどん欲なオランダ人は「もっといい勝ち方ができたのではないか」=「ほかにいいメンバーがいたのではないか」と批判的な目で代表チームを見る。とりわけバックス陣は「インディでは経験がなさすぎる。やはりマタイセンでよかったのでは」など、若返りとは逆行する声もあった。


 また公称169センチのクラーシも批判された。彼にとってトルコ戦は代表デビュー戦だった。そこでいきなりアンカー役を務めたのだが、彼の周りを見渡してもやはり緊張した若い選手ばかり。こうしてクラーシは安全策を取り過ぎ、バックパスばかりになってしまった。やはり初代表のDFヤンマートとともに、早々にクラーシはベンチへ下がった。


 こうした背景があっただけに、若いチームで押し通した末のブダペストでの快勝劇は意義があった。6分という早い時間帯でクラーシは不必要なファウルで相手にPKを与える苦いスタートを切った。前半終了間際にもハンドを犯したが、レフェリーに見逃される運もあった。こうしたマイナスポイントを差し引いても、ハンガリー戦のクラーシは目に見えてプレーの質が高くなり、彼本来の前へのパスが何本も出た。


 試合前にはスターのひとり、ロッベンがそけい部を痛めて突然先発から外れるアクシデントもあった。しかし、急遽出場したレンスが2ゴール1アシストを記録する大活躍をみせた。若い守備陣も奮闘した。不安要素のひとりだったインディはうれしい代表初ゴールを挙げた。これでオランダはW杯予選2戦全勝の勝ち点6、得点6、失点1という最高のスタートを切った。

大勝がもたらしたぜいたくな悩み

 トルコ戦、ハンガリー戦が終わってみると、いつの間にかオランダの選手層が厚くなっていた。GKクルルがトルコをシャットアウトしたことは、ここ数年、守護神の座が安泰だったステケレンブルフに大きな刺激になったはずだ。今更、スピードのないハイティンハ、マタイセンがいつまでもセンターバックを組むのはどうかと思っていたが、若い選手の最終ライン抜てきでこのベテラン2人の存在価値が高まった。トルコ戦ではハイティンハが最終ラインを統率し、ハンガリー戦ではマタイセンが負傷したインディに代わってそつなく仕事をこなした。


 今回、ファン・ハール監督はファン・デル・ファールト(トッテナムからハンブルガーSV)、ナイジェル・デ・ヨング(マンチェスター・シティからミラン)、アフェライ(バルセロナからシャルケ04)、ファン・デル・ウィール(アヤックスからPSG)の4人を「彼らは移籍のことの方が忙しいから」という理由で代表メンバーから外した。この4人は1カ月後のアンドラ戦、ルーマニア戦で必要なのか、必要でないのか――。ハンガリー戦の大勝は、オランダにぜいたくな悩みを与えた。


<了>

中田徹
中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

スポナビDo

新着記事一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント