アルゼンチン代表で最高の時を過ごすメッシ=11試合で11ゴールと量産

課題は不安定な最終ライン

サベーラ監督(写真)率いるアルゼンチンは南米予選で首位に立つ。チームは平穏な時を過ごし、信頼を得ている 【写真:ロイター/アフロ】

 この試合でサベーラ率いるアルゼンチンが露呈した問題は、ゲームの構成力や前線の決定力ではなく、マークのズレや不安定な最終ラインの守備にあった。ディ・マリアのゴールで早々にリードを得たにもかかわらず、ロドリゴ・ブラーニャのハンドで与えたPKにより一時的に同点とされたのはそのためだ。

 アルゼンチンにとって影響が大きかったのは、アグエロよりハビエル・マスチェラーノの不在だった。バルセロナではすっかりセンターバックに定着したものの、サベーラには本職のボランチで起用されている。中盤でのボール奪取と素早く正確なボールの散らしを保障してくれる選手である。それはマスチェラーノの代役として出場したブラーニャにはできない芸当だ。母国のエストゥディアンテスでプレーしているせいか、ブラーニャはアルゼンチンサッカーらしい肉弾戦に身を投じすぎる傾向が目立った。

 対照的に、フェルナンド・ガゴは最終ラインと中盤をつなぐ役割をよくこなしていた。ボール奪取とボールの散らしを共にハイレベルにこなしていたボカ・ジュニアーズ時代を彷彿(ほうふつ)とさせるプレーにより、マスチェラーノのパーフェクトなパートナー候補に浮上したと言える。とはいえ、それはサベーラが最大の問題点である最終ラインにマスチェラーノを起用しなければの話ではあるが。

 不安定な最終ラインは相変わらずだ。彼らの問題は失点を避けたいという意識が強すぎるところにある。ただボールがゴールに入らぬよう相手の攻撃をはね返すことに専念するがゆえ、マイボールを大事にしてGKからゲームを組み立てるという発想が頭にないのだ。

 それはサベーラがセンターバックに頑強かつ長身で空中戦に強いフェデリコ・フェルナンデスとエセキエル・ガライ、右サイドバックにも同様の特長を持つウーゴ・カンパニャーロを起用していることに表れている。なお、マルコス・ロホを右サイドバックに起用している理由は、中盤でもプレーできる彼を1列前に上げて3バックに変形するオプションを可能にするためだ。

それでも今のチームには余裕がある

 このような人選に表れるプレー哲学の違いこそ、アルゼンチン代表がトータルな、つまり結果を出しながらスペクタクルも保証できるチームになるために欠けている要素として、常々指摘されてきた点である。

 後方からゲームを構築することも不可能ではないはずだ。セルヒオ・ロメロは確実な受け手もいない前線へと粗野にボールを蹴り飛ばすのではなく、近くの味方へ手でボールを渡せばいい。両サイドバックは中盤でパスコースを作ってもっとプレーに関与し、敵陣深くまで攻め上がってFWとともにチャンスに絡まなければならない。

 そのためには恐らく、いくつかの選手を入れ替える必要が出てくるだろう。マスチェラーノを最終ラインに下げ、彼のパートナーにはマルティン・デミチェリスを復帰させるか、足元の技術に優れたほかのセンターバックを試す。左サイドバックにはフアン・サンチェス・ミーニョ、右にはパブロ・サバレタを起用すべきだ。

 ただ、今のアルゼンチンには早急な解決策を求める必要がない余裕がある。W杯南米予選で首位に立ち、メッシは素晴らしい状態にある。現在のアルゼンチンはそれだけで十分すぎるほどの信頼を得ているのだ。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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