中村GM誕生で阪神ファンが抱える不安=致命的な球団とファンの“感覚のズレ”

山田隆道

暗黒時代の象徴的人物を配置する「善意の押し売り」!?

阪神史上初のGMに就任した中村勝広氏 【写真は共同】

 阪神タイガースに中村勝広ゼネラルマネージャー(GM)が就任した。阪神史上初のGM導入ということもあり、このニュースは関西圏を中心に大きく報じられた。

 しかし、なんとも奇妙な構図である。それが現段階の僕の率直な感想だ。阪神球団は「史上初のGM」という印象的な言葉を使うことで、鼻息荒く大改革を打ち出しているように見えるが、それに対する阪神ファンの反応は驚くほど悪い。特にネット世論(それが世論とは限らないが)では大半の阪神ファンが中村GMを歓迎しておらず、それどころか異常なまでの拒否反応を示している。球団とファンの感覚がここまでずれるとは、普通の人気商売なら致命的だろう。まるで「善意の押し売り」と「ありがた迷惑」の関係だ。

 これは単純に、阪神ファンの中村GMに対するイメージが悪いからだろう。中村GMといえばかつて阪神監督を務めた人物だが、その時期(1990〜95年)は俗に「暗黒時代」と呼ばれる低迷時代であり、しかも6年という球団史上最長期政権でもあったため、多くの阪神ファンにとって中村GMは暗黒時代の象徴的人物に見えるわけだ。

監督時代には世代交代を推進し「亀新フィーバー」を巻き起こす

 中村GMの名誉のために少しフォローすると、中村“監督”はあくまで暗黒時代(一般的に87年〜02年ごろまで)の中ではそれなりに功績を残したほうだった。6年間で2位が1回、4位が2回、最下位が3回。彼の前後の時代がことごとく最下位(たまに5位)だったことを考えると、数字の上ではまだマシな部類である(レベルの低い話だが)。
 また、現在の阪神の重要課題とされている世代交代に関しても、中村監督は当時のそれを推進した人物だった。代表的な事例としては92年が思い出される。それまで長年にわたって阪神打線を牽引してきたベテラン主砲・岡田彰布が衰えを隠せなくなってくると、中村監督はその岡田にチャンスの場面で容赦なく代打を送り、ファンを騒然とさせた。

 しかもこの代打こそが、前年まで2年連続でウエスタン・リーグ首位打者に輝いた期待の若手・亀山努だった。このシーズン、亀山は岡田の代打として登場しただけでなく、同じく晩年を迎えていたベテラン・真弓明信に代わる右翼手としてレギュラーを獲得。その後、これまた彗星(すいせい)のように現れたニュースター・新庄剛志とともに「亀新フィーバー」と呼ばれる大旋風を巻き起こし、それによって阪神は2位に躍進。そのほか、オマリーとパチョレックの外国人や湯舟敏郎、田村勤、久慈照嘉といった若手など、このシーズンに活躍した新たな主力メンバーの多くが、中村監督時代に獲得した選手であった。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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