元NHK解説委員・山本浩が語るスポーツの「見せる戦略」
元NHK解説委員で現在は法政大学スポーツ健康学部教授を務める山本浩氏 【スポーツナビ】
NHKアナウンサーとしてサッカーや五輪競技の取材、実況を担当。現在は法政大学スポーツ健康学部教授を務める山本氏が、スポーツの「見せる戦略」について語った。
スポーツを「見る」ことに執着する時代
まず、スポーツの魅力とは「する」ことがあります。子どものころから、自分がスポーツを「する」ことで楽しむということです。そして、規模が大きくなってくるにつれて「させる」人も必要になってきます。指導者、スタッフ、組織などですね。
近年はこの「する」と「させる」を凌駕する「見る」ということが出てきました。「見る」に執着する時代と言ってもいいでしょう。これは非常に大きな変化です。
スポーツを見るためにはテレビの存在は大きいと思います。今では各局で多くのスポーツが放送されています。テレビは最初のころはVTRがなく、録画ができなかったので生中継が基本でした。多かったのは講演や歌舞伎、そしてスポーツだったのです。スポーツは「見て、分かる」ものなので、当時のテレビにとってはすごく大きな価値がありました。
そしてスポーツのテレビ中継は技術革新によって進化してきました。サッカーのワールドカップでは1990年大会に16台だったカメラが、2010年には32台に増えています。これだけカメラが増えたのは、現場で見るよりもテレビで見る人の方が圧倒的に多いという現実があったからではないでしょうか。
スポーツを現場で見る場合には、「テレビに映らない部分を見る楽しみ」があります。逆にテレビが歓迎されるのは「現場に行かなくても見られる」からであり、「ビジネスになる」、「普及に役立つ」といった面でとらえる人もあります。
そして今ではインターネットでもスポーツが見られます。1人が1台、見られる端末を持っているご家庭では、チャンネル権争いもなくなっているでしょう(笑)。
技術革新により「映像に力点が置かれる時代」に
ビデオの再生映像も進化しました。昔はビデオテープを巻き戻してから再生していたわけですが、今は録画しながら再生できる装置まで開発され、数秒前の映像をすぐに再生することができるのです。
映像はテレビだけのものではなくなりました。今ではビデオ判定にも使われています。スポーツ技術や戦術の進化により、ファウルかそうでないかの判断を肉眼だけでするのが難しくなっています。「映像に力点が置かれる時代」になってきました。
ここでラグビーの魅力について考えてみましょう。ラグビーは「する」と「させる」が非常に大きく、密接につながっています。ラグビーをしていたという共通点だけで心の底から仲良くなれるような、独特な魅力もあります。しかし今の時代、多くに人に見せる力があるかと言えば、この点では「見る」に関わる部分が弱い印象があります。
私も秩父宮ラグビー場に時々出かけますが、お客さんの年齢層が高いのが目にとまります。東京六大学野球もそうですね。若い世代にどんどん広まってはいないのです。
ラグビーのトップリーグの観客動員数は昨季が34万7000人。これをさらに広げるためには広報戦略をこれまで以上にしっかりしないといけません。2019年のワールドカップ開催まではまだ時間があります。それまでにじわじわと違った状況にしなくてはいけません。