「高い基礎技術」を植え付けるJFAアカデミーの育成=幸野志有人や田中陽子の活躍が証明すること
「世界基準の個の育成」の実現を目指す
ヤングなでしこの田中陽子もJFAアカデミー福島の1期生。幸野とともに、高い技術を持つ 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】
2日に行われたJ2第32節のFC町田ゼルビアとファジアーノ岡山の試合後、岡山のMF仙石廉がマッチアップすることの多かった町田のMF幸野志有人を評したコメントだ。8月上旬にFC東京から町田に期限付き移籍をしてきた19歳の若手ながら、すでにアルディレス監督の標榜するボールとイニシアチブを握った上での攻撃的サッカーの軸としてスタメンを勝ち取っている。
今季は選手層の厚いFC東京で出場機会に恵まれなかったことから「まだ90分のゲーム体力は戻っていない」と幸野本人は語るものの、岡山戦後は「タイミングよくボールを付けてもらえるようになってきたのでありがたい。だからこそ前を向く、違いを作るプレーが必要でまだそこが課題」と町田のサッカーの核としての自覚と責任を感じる発言も残していた。
その幸野はJFAアカデミー福島の1期生として卒業前の若干16歳の2010年シーズン開幕前にFC東京入り。ちょうど今盛り上がりを見せるヤングなでしこ( U−20日本女子代表)の主力の一人、MF田中陽子もJFAアカデミー福島1期生の選手であることから、世間的にもJFAエリートプログラムとして06年4月に開校した同アカデミーへの関心が高まっている。日本サッカー界としては、幸野、田中といった選手がJリーグや代表の舞台で活躍し始めたこのタイミングを「好機」ととらえ、JFAアカデミー福島として「世界基準の個の育成」を実現するべく長期的視野に立った育成メソッドのもと、選手に『高い基礎技術』を植え付けている点に目を向けていきたい。
例えば、岡山の仙石が評した幸野の相手の逆を取るファーストタッチの技術は、ハイスピード、ハイプレッシャーの中でもほとんどブレない。岡山戦は激しい雨が降り続き、エリアによっては水の浮くピッチコンディションとなっていたが、逆にその悪条件が幸野のファーストタッチの質の高さを浮かび上がらせていた。一方、開催中のU−20女子ワールドカップで左右両足からFKを決めた田中陽子の基礎技術も動きながら連続性を持ったスキルとして高く評価できるもの。
「うまい選手」の定義とは
JFAアカデミー福島の中田康人監督も敗れた決勝後、「今日のユナイテッドにフィジカル勝負を挑んでいたとしたら、たぶんコテンパンにやられていた」とコメントしている。同監督の「テクニックがあれば、フィジカル的な速さ、強さのある相手とやっても十分に対抗できる。フィジカルも上げていかないといけないが、育成年代でしっかりとしたテクニックを身につけ、フィジカル的なものはできればその次の年代のところでやる方向性は、あらためて間違いではない」という発言も含めて、その方向性は日本の育成として広く共有したい。
さらに、幸野、田中を単に「うまい選手」「いい選手」と評するのみならず、彼らがピッチ上で披露する高い基礎技術にフォーカスした上で、技術の質やうまい選手の定義について再考したい。少なくともトリッキーなプレーやフェイント、観衆を沸かせるようなオーバーヘッドができることが「=うまい選手」ではないということは彼らが証明している。
<了>
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