西武を勢いづける“超名門大卒の熱血助っ人”クリス・カーター

埼玉西武ライオンズ

「田辺さんのアドバイスがなかったら1軍には来れてなかった」

スタメンを外れても常に準備を怠らずにチャンスを待つ 【(C)SEIBU Lions】

 それから数年後、念願の日本球界でのプレーを叶えた後も、再びカーターに試練が降り掛かった。
 来日時から万全ではなかった膝の状態がオープン戦で悪化。手術を余儀なくされた。ようやく膝が治ると、今度は日本野球への適応に苦しんだ。
「日本人投手からヒットを打つのは難しいんじゃないか……」日本でプレーすることに自信をなくした時期もあったと言う。

「成功する自信がなくなってしまって、2軍の試合で3打席凡退してイライラしていたときに田辺コーチが声をかけてくれた。『今日は良かったよ、今週は良いよ』と」
 結果でなく、内容を評価してくれたコーチのおかげで自信を取り戻すことができた。その後も田辺コーチとともにひたむきに練習に取り組み、ようやく一軍への切符をつかんだ。
「1軍でプレーしたいんだったらもっと膝を使えと。ケガの影響もあって、自然とバッティングでも膝をかばってしまっていたんだと思う。田辺さんのアドバイスがなかったら1軍には来れてなかったと思っている」と感謝を口にする。

 今でもスタメンから外れた試合でさえ、カーターはベンチの中で常に動いている。バットを持って、時にはヘルメットまでかぶって。
「試合に出る準備はできている」。大学時代の経験があるからこそ、一試合、一打席に対する準備を怠らない。

「確かに若いときはこのスタイルはほかの選手たちに理解されなかったんじゃないかと思う。でもプロになって、メジャーに上がって、ようやくそのスタイルを自分のものとして確立できた。どんな時も次のチャンスはないと思っているから、いつでも準備ができているように。それは小さい頃からずっと変わらない僕のスタイルだよ」

 一番重要なのは「どんなことも諦めないこと」だと言う。
 この一打席が最後だ。「毎打席がワールドシリーズの最終打席だと思って」集中力を高めて試合に臨む。そして、やはり日本でも、チャンスを掴んだのは「代打」での出場からだった。

重苦しいムードを振り払ったミーティングでの言葉

 8月23日、今季初の首位に浮上して迎えた福岡ソフトバンク戦。勢いのまま首位固めを狙ったライオンズだったが、前日までまさかの2連敗。さらに死球による骨折でチームの柱であったキャプテン・栗山巧も戦線を離脱。重苦しい空気の中、迎えた3戦目。試合前のミーティングでカーターが口を開いた。

「我々はチャンピオンを目指すチーム。キャプテンの離脱は残念だけれど、諦めずに戦って、ライオンズこそチャンピオンにふさわしいチームだということを証明しなくてはいけない。みんなでチャンピオンらしく戦おう!」

 その日の試合は見事に快勝。連敗を止めた試合後のインタビューで渡辺久信監督も「試合前にカーターがみんなに勇気を与えてくれた」と名前を挙げて評価した。カーターの一言が沈みかけたチームを再び奮い立たせた。

 野球に対してどこまでもストレートなカーター。混戦のパ・リーグを制するために、今では欠かせない戦力となっている。
「どんなことも諦めないこと」――シンプルながら、その言葉は重い。
 どんなときでも全力疾走するカーターの目には、すでにチャンピオンに君臨するライオンズの姿が見えているはずだ。

<了>

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