ヤングなでしこ、田中陽子という驚き=U−20スイス女子代表 0−4 U−20日本女子代表

宇都宮徹壱

日本は1位を目指すべきか、それとも

スイスに快勝したヤングなでしこはグループ首位通過を果たした 【写真は共同】

 U−20女子ワールドカップ(W杯)は、開幕戦から1週間後の26日よりグループリーグ第3戦を迎えることとなった。U−20日本女子代表(ヤングなでしこ)は、宮城から東京に移動し、国立競技場でスイスと対戦。それに先立ち、同じ国立では16時20分から韓国とブラジルの試合が行われた。両チームが所属するグループBは、2試合を終えた時点で1位ナイジェリア(勝ち点4)、2位韓国(同3)、3位ブラジル(同2)、4位イタリア(同1)となっている。日本は、グループAの1位になればグループBの2位と、グループAの2位になれば、グループBの1位と対戦する。つまり、この試合に臨むいずれかと、準々決勝で顔を合わせる可能性が非常に高い、ということである。

 韓国対ブラジルの試合は、ブラジルが多くの時間帯でゲームを支配していたものの、韓国も確かな技術と素早い寄せ、そしてみなぎるファイティングスピリッツを発揮して、これに対抗。的確な守備と鋭いカウンターから、後半29分と37分に立て続けにチョン・ウナがゴールを決めて、2−0でブラジルを下した。一方、神戸で行われていたナイジェリア対イタリアの試合は、オルデガのハットトリックでナイジェリアが4−0で完勝。圧倒的な強さでグループBをトップで通過し、韓国が2位を確定させた。

 さて、日本はこのスイス戦で1位を狙うべきか、それとも2位を狙うべきなのか。日本は現在、ニュージーランドと同じ勝ち点4ながら、得失点差でグループ首位に立っている。ヤングなでしこを率いる吉田弘監督は、以前の会見で「テレビ側からすると(キックオフが)19時20分の方がいいかな」と冗談めかしに語っていたが、おそらく本音でも1位を狙っていることだろう。昨年から続く女子サッカーへの注目度をつなぎとめておくためにも、やはりゴールデンタイムでのテレビ中継は魅力的だ。加えて、1位になっても2位になっても、試合会場はずっと国立のまま。であるならば、日本としてはこのスイス戦にしっかり勝って、グループを1位抜けすべきであろう。そんなわけで、この日のヤングなでしこは必勝態勢のメンバーで臨んだ。

「サイドから崩しての得点」というテーマ

 あらためて、この日のスターティングイレブンを見てみよう。GK池田咲紀子。DFは右から中村ゆしか、土光真代、木下栞、浜田遥。中盤は守備的な位置に田中陽子と猶本光、右に田中美南、左に横山久美、中央に柴田華絵。そして1トップに道上彩花。コンディション不良の藤田のぞみ、そして先のニュージーランド戦でオウンゴールを献上してベンチに下げられた仲田歩夢、そして右サイドバックの高木ひかりをベンチスタートとした以外は、ニュージーランド戦と同じ顔ぶれが並んだ。

 試合は序盤から日本ペース。後方からビルドアップして、ボランチ経由で両サイドに展開し、そこからドリブルで崩すか、クロスで折り返すというパターンが何度も見られた。特にトップ下の柴田のゴールへの姿勢、田中陽の攻守にわたる献身的なプレー、そして浜田の積極的なオーバーラップが光る。この日のスイスは、GKを含めて3名の選手が今大会初出場。シュベリー監督は、すでにグループリーグ敗退が決まっていることを受けて「若い選手で臨む」と宣言していた。そして、とにかく引いて守って、チャンスがあればカウンターという戦術に徹することで、開催国に一泡吹かせようとしていたのである。

 対する日本は「サイドから崩しての得点」というテーマを掲げていた。前日会見で吉田監督は「サイドを崩してからのゴールがない。そこから点が入ると、いろんなバリエーションから点が入る」と語っている。ミドルシュートやセットプレーでの得点は日本の武器だが、決勝トーナメントでのタフな戦いを考えるならば、できるだけ多くの攻撃のバリエーションを試しておきたいところ。それもあって、この日のヤングなでしこは両サイドからの崩しにこだわりながら攻撃を仕掛けていった。ところがゴール前まではボールを運ぶものの、ちょっとした呼吸のズレやGKベニのファインセーブなどもあり、そのたびに攻撃陣は天を仰いだ。

 それでも先制したのはヤングなでしこ。30分、相手ペナルティーエリア付近左でFKのチャンスを得ると、これを田中陽が右足を振り抜き、ゴールネットを豪快に揺らす。のちに判明したことだが、この時ベンチの吉田監督は、キッカーに横山を指名したという。ところが、この指示が「聞こえなかった」という田中陽は「わたしに任せて」と自らキッカーを志願した。彼女のキックの精度にも驚かされるが、それ以上に特筆すべきは、19歳とは思えぬ落ち着きと自身の技術に対する確かな自信である。だが田中陽が私たちに見せた驚きは、これで終わりではなかった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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