実力派ぞろいのベルギー代表、国民が抱く期待と夢=ベルギー 4−2 オランダ

中田徹

意外な結果ではないオランダ戦の勝利

タレントがそろうベルギーはオランダとの親善試合で4−2と快勝した 【写真:AP/アフロ】

 8月15日に行われた親善試合で、ベルギーがオランダ相手に4−2と快勝した。両チームのチーム事情をかんがみると、これは決して意外な結果ではない。タレントぞろいのベルギーは今こそ、結果を残す時期に来ている。一方、ユーロ(欧州選手権)で惨敗したオランダは新監督にファン・ハールを迎えて、これが初めての試合。3週間後から始まるワールドカップ(W杯)予選で結果を出しつつ、新旧交代も図らないといけないという難しいミッションに取りかかり始めたところだ。

 ベルギーに欠けているのは自信だ。メンバー構成を見ると、ポゼッションに優れた選手が最終ラインから前線までしっかりそろっている。しかし、この国は手堅く勝負にこだわるサッカーをする。しかも自分たちを過小評価する傾向もある。オランダ戦でもデフォーがスナイデルを、ヴィツェルがファン・デル・ファールトを、チャドリがナイジェル・デ・ヨンを中盤で追い回すサッカーをした。前半立ち上がりはベルギーが局地戦で勝つことが多く、20分にはベンテケのゴールで先制したが、やがてオランダが調子を取り戻し、54分にナルシング、55分にフンテラールがゴールを決めて1−2と試合をひっくり返した。前半30分からの25分間、ベルギーはただオランダの選手の後ろを走っていただけだった。

 逆転されてからベルギーに火がついた。デフォー、チャドリ、デ・ブライネ、ルカク、ヴィツェル、メルテンスが次々にオランダの守護神・ステケレンブルフが守るゴールを襲った。このベルギーの圧力からオランダが追い込まれてしまい、75分、守備的MFナイジェル・デ・ヨンがボール裁きをミスしてしまう。ベルギーはこれを生かしてメルテンスが2−2とすると、さらにルカクとフェルトンゲンが連続ゴール。たった5分間で3点を奪う猛攻を見せて4−2と勝利を決定づけた。

 過信は駄目だが、過小評価も駄目だ。どちらかというとベルギーの場合は後者(逆にオランダ人は前者)である。しかし、後半自らイニシアチブを握って戦い、それがゴール、さらには勝利という結果につながったことは、これからW杯予選を戦う彼らにとって大きな自信になっただろう。

栄光と信頼を取り戻せるか

 今のベルギー代表は国民から大きな期待を寄せられている。今回の代表チームはキャプテンであり守備の重鎮であるコンパニーをけがで欠きながら、ファン・ブイテンとフェルマーレンがしっかりセンターバックコンビを組み、後半からはファン・ブイテンに代わってアンデルワイレルトが入る層の厚さを見せた。この結果、昨季のオランダリーグのナンバーワン選手とも呼べるフェルトンゲンは、左サイドバックに押し出されたのだ。

 GKだけ見てもクルトワ、ミニョレ、ジレとそろっている。1ゴール2アシストと後半の3ゴールを演出したメルテンスは途中出場の選手だ。
「オランダに1−2とされてからデ・ブライネ、デンベレ、ルカク、メルテンスを入れて反撃した。交代選手たちがオランダとの違いを作ってくれた」とウィルモッツ監督。彼らに代わってベンチへ戻ったのがミララス、アザール、ベンテケ、チャドリという選手たち。今のベルギー代表は実力派ぞろいだ。

 この日のコーニン・バウデワイン・スタディオンは真っ赤に染まった。彼らが来た赤いユニホームのほとんどは、大きく分けて2種類あった。背中に「MEXICO 86」と入ったバージョンと「BRAZIL 14」と入ったバージョンだ。
 かつてのサッカー大国ベルギーの栄光は86年W杯のベスト4で止まっている。彼らは2002年の日韓W杯以来、ビッグイベントの出場を果たせてない。ロード・ダウフェルス(“赤い悪魔”を意味するベルギー代表の愛称のオランダ語版)は国民の信頼を失い、応援からも遠ざかった。

 育成の面で遅れをとった時期もあった。しかし、隣国のオランダ、フランス、イングランドに若い選手が成長の場を求め始めてから国内の育成も刺激を受け、今のタレント王国になった。08年の北京五輪でベルギーU−23代表は4位に入っている。

 それでも彼らは10年のW杯、12年のユーロは予選で負けた。しかしユーロ予選のトルコ戦など、国民の胸を打つような試合も多く、徐々にベルギー人たちも「今のチームのポテンシャルは高いんじゃないか」と気づきだし、スタジアムにファンが戻って来た。それだけに14年に懸ける代表チームとベルギー国民の思いは熱い。

「われわれのジェネレーションは、われわれのドリーム」。コーニン・バウデワイン・スタディオンに翻った横断幕は、この世代こそメキシコ以来の夢を見せてくれるはずだという願いがこもっている。

 今こそ、ベルギーは結果を出す時だ。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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