求められる日本流の構築 28年ぶりのメダルを「快挙」にしないために=五輪女子バレー総括

田中夕子

4年間で着実に成長した日本バレー

28年ぶりのメダル獲得を果たした女子バレー。次のリオも表彰台にいるために“個”に頼ったバレーからの脱却が求められている 【Getty Images】

 28年ぶりに手にした五輪の銅メダル。
 緻密なデータ分析、選手、スタッフともに徹底した役割分担。勝利と快挙をもたらした背景には、いくつもの理由があった。
 
 ロンドン五輪の開幕を直前に控え、女子バレー日本代表の練習が公開された。
 選手を代表して、囲み取材に応じた竹下佳江(JT)は「目標は?」と問われ、迷うことなく即答した。
「金メダルを獲ることです」

 堂々とした姿を見た、かつてのチームメートはそんな竹下の姿を見て驚いたと言う。
「テンさん(竹下のニックネーム)がハッキリ目標を口にするなんて、見たことがありません。かなり手応えがあるんだと思いますよ。根拠も自信もなく、そんなことを言う人じゃないですから」

 4年前、北京五輪の準々決勝でブラジルと対することが決まった後、選手全員でミーティングをした。どこからの攻撃が有効か。相手の弱点は何か。現在の日本代表と同じように、データに基づいて戦術を練ったが、「これでブラジルに勝てる」という活路は見いだせなかった。

 あれから4年。自国開催の利はあったが、世界選手権3位、ワールドカップで4位と着実に経験を重ねた。エースの木村沙織(東レ)の言葉にも、確かな自信がうかがえた。
「前は、米国やブラジルのような強い国に対しても、どうすれば勝てるのかその方法が分かりませんでした。でも今は、自分たちがこういうバレーをすれば勝てるという形が見えている。その違いは大きいです」

4年の成長が結果として現れた準々決勝中国戦

 最も分かりやすい形で、木村の言うべき「やるべきバレー」が展開されたのは、ロンドン五輪準々決勝の中国戦だった。
 最大の勝因は、日本のサーブだ。
 中国戦でまずポイントとなったのは、サーブレシーブの中心であり、惜敗した昨秋のワールドカップでは、攻撃面でも高い決定率を残された張磊を狙うこと。左右よりも前後への揺さぶりが弱いことを念頭に入れ、コートの奥を狙った後は前へ落とすなど、強弱をつけたサーブを常に張へ向けて放った。

 もともとサイドからの攻撃が多い中国は、レシーブが崩れればさらに高い確率でサイドから攻めてくる。1本で止めるのではなく、後衛のレシーバーにつなげることを目的としたブロックで効果的にワンタッチを取り、日本の攻撃に持ち込む。序盤から当たっていた両サイドの木村、江畑幸子(日立)に竹下が予選よりも高めのトスを供給し、木村が32本、江畑が31本のスパイクを決め、日本を勢いづけた。

 中盤に張が負傷交代すると、サーブのターゲットは代わって入った曾春蕾と、エースの惠若※(※王へんに其)。木村、江畑と同様に攻撃面で高い決定率を残していた惠の攻撃を少しでも封じるだけでなく、レシーブを不得手とする惠にプレッシャーを与えることも狙いの1つだった。
 
 そして、試合はフルセットに突入し、16−16の場面を迎えた。真鍋政義監督は、ここでピンチサーバーとしてセッターの中道瞳(東レ)を投入。中道の狙いは1つだった。
「レシーブが苦手な惠を狙うこと。フルセットで疲れもあったので、最初は前に落として、次は奥を狙う。余計なことを考えないように、『ここにサーブを打てばいい』ということだけ考えて(コートに)入りました」

 まさに狙い通りのサーブで、1本目はダイレクトで返ってきたボールを荒木絵里香(東レ)がダイレクトスパイク、そしてマッチポイントはサービスエース。
 練習時から「誰がどこを狙う」と目標を定め、なぜそこに狙うのか。理由を明確にしてきた。ただやみくもに自分の得意なコースに打つだけでなく、細かなターゲットを狙って打つ練習を繰り返してきた成果が発揮され、大きな、大きな勝利をもたらした。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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