なぜ福島千里はロンドン五輪で失速したのか=陸上

高野祐太

100メートル、200メートル、400メートルリレーと、出場した3種目全てで予選落ちに終わった福島千里 【Getty Images】

 福島千里(北海道ハイテクAC)のロンドン五輪は、100メートルが11秒41で5組5位、200メートルが24秒14で3組7位、400メートルリレーが44秒25で1組8位。いずれも目標としていた予選突破はならず、持てる力を発揮することなく敗退してしまった。
 100メートルは得意のスタートで上体を起こすのが早過ぎたし、200メートルではまずまずのスタートながら、後半にピッチが鈍ってしまった。2回目の五輪も「今回も悔しいのひと言しか残らないかなって思う」(福島)結末になった。
 なぜ福島はロンドン五輪で結果を残せなかったのか?
 
 有り体に言えば、時間が足りなかった。相次ぐアクシデントでリカバリーに時間を労し、取り組んで来たことが8月のロンドン五輪までに達成できなかった。

「最高の体に仕上がっていた」福島を襲ったインフルエンザ

 「これ見て下さい、これ。福島の体。スゴイでしょ?」
 今年の早い時期に、北海道ハイテクACのマネジャーを務める畑善子氏から発せられた華やいだ声色を思い出す。
 畑マネジャーが指差したのは、初めて出場した3月の世界室内選手権女子60メートル予選のときの福島の立ち姿をとらえた雑誌の写真だった。筋肉が引き締まり、迫力が増して、汗のにじむ肌はつややかに輝いていた。これは良い。昨季は個人種目の100メートルと200メートルで自分の持つ日本記録の更新はならなかった福島だが、今年はいいところを見せてくれるかもしれない。

 この予選、得意のスタートで飛び出した福島は2組2位、全体9位タイの7秒29で日本記録をさらりと更新した。この流れで、さあ、もう一発決勝で勝負しよう。そんな意気込みだった。
 
 ところが、である。予選を走ったとき、既に福島はインフルエンザウイルスに感染していたのだ。本人がどうしても決勝に出たいと思っても、気合いでどうにかできるようなものではなかった。病状は悪化した。決勝を棄権し、そのままホテルに缶詰状態のまま3、4日間も過ごさなければならなかった。
 「世界室内の時点までは、最高の体に仕上がっていたんだよね」。福島を指導する中村宏之監督が残念そうに語る。
 話を聞いたのは、世界室内が終わって数週間が経過したころのこと。その後の経過については、「もう戻っていますよ」と、復調を強調したが、その物言いには、ほんの少し歯切れの悪さがあるように感じられた。継いだ言葉は「インフルというのは、ただ3、4日寝込んでいるのとは訳が違って、相当体力を消耗させられますからね」。取材していて落ち着かない感じが残った。そしてこのインフルエンザの一件が、負のスパイラルの始まりとなってしまう。

「日本記録を出したころの私よりもレベルアップしていると思う」

 そもそもの話、2012年ロンドン五輪を迎えるに当たって、福島は新たな走りを手に入れるべく、必死に模索していた。新たな試みも取り入れて来た。本人と周囲の話を総合すると、新たな挑戦は新たな進化に確実につながっているはずだった。
 「日本記録を持っている人よりは体幹もアップしていると思うし、技術的にも日本記録を持ってる人よりもいいと思います。( 日本記録を持っている人よりも?)はい、誰かわからないですけど、多分私だと思いますが(笑)、そのころの私よりも確実にレベルアップしていると思う」
 

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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