吉田麻也、チームに安定感をもたらした頼れる主将
サッカー人生初の大舞台は3戦全敗という結果に
初の大舞台となった北京五輪では3戦全敗。この経験が今大会に生きている 【写真:AP/アフロ】
この念願がかない、北京五輪代表に滑り込んだものの、サッカー人生初の大舞台は3戦全敗に終わった。「当時19歳で分からないことだらけだったし、大会前にスタメン落ちしてしまった。結局、出たのは1次リーグ敗退が決まった後のオランダ戦だけで、全く自分らしさを出せなかった。チームとしてもそうでした。自分たちのサッカーをやって歯が立たなかったんならまだよかったけど、何も出し切れないうちに終わったのが一番歯がゆかったですね」と吉田はしみじみ振り返る。
あれから4年。彼はVVVで2シーズン半プレーし、さらにはザックジャパンでも厳しい戦いを経験。守備を担う中核選手へと飛躍した。オランダですさまじい突破力を持つ選手と日常的に対峙(たいじ)することで、課題だった1対1のレベルアップにもいそしんだ。さらに、走り方のプロである法政大学准教授の杉本龍勇氏からアドバイスを受け、課題のスピードを少しでも向上できるように努力を続けている。11年アジアカップのころは、ヨルダン戦(グループリーグ第1戦)でのオウンゴールによる失点や、カタール戦(準々決勝)での不用意な退場など目に見える大きなミスも多かったが、ここへきてグッと安定感も増してきた。
6月の14年W杯・ブラジル大会アジア最終予選第2戦・ヨルダン戦(埼玉)で右ひざを負傷したにもかかわらず、関塚監督が吉田の招集に強くこだわったのも、豊富な国際経験を若いチームに注入してほしいと考えたからだろう。吉田はオーバーエイジといえども、89年の早生まれの権田修一や永井謙佑と同学年で気心も知れている。2週間あまりしかない短い準備期間でチームに溶け込み、リーダーシップを発揮してくれるのはこの男だと指揮官は確信していたはずだ。
誰もが認める存在感
センターバックのコンビを組む鈴木も「今は1人ひとりの距離感がすごくいい。それによって前がボールを追えるし、後ろもついていける。全体のバランスがよくなったのが大きい。1人がはがされても、カバーリングだとかポジショニングだとか、マークの受け渡しや、その後の対応もしっかりできるようになった」と吉田加入効果を前向きに評する。高さと判断力を持ち、的確な指示を出せる男の存在感をチーム全員が認めている。
攻撃の起点が増えたことも、1つのプラス要素だろう。最終予選の時は、ボランチの扇原貴宏が攻めのスイッチを入れるパス出しの多くを担っていたが、五輪レベルの大会になると彼へのプレッシャーも相当厳しくなる。最終ラインから長いボールが供給されないと非常に苦しい。そこで吉田という精度の高いフィードを出せるDFがいるのは非常に心強い。「麻也君がいるとボールもすごく落ち着くし、奪った後の攻撃もうまくできている。ショートカウンターが決まっているのは、後ろでしっかり作れているのが原因かなと思います」と鈴木もコメントしている。
吉田自身、3試合無失点という結果に自信を深めている。だが、五輪は決勝トーナメントからが本番。中田英寿、中村俊輔らを擁し「史上最強」と言われたシドニー五輪代表でさえ、この段階で足元をすくわれている。エジプトにはトゥーロン国際でも敗れているだけに、細心の注意を払う必要があるだろう。
「ここまで無失点というのを意識しすぎて、あまりにも守備的にならないように、高い位置からボールを奪って自分たちのサッカーをしたい。守りに入るのが一番よくないんで、気を付けたいです」と彼も気を引き締める。
あこがれのマンチェスター・ユナイテッドの本拠地「オールド・トラフォード」で、日本の頼れるキャプテンはどんな仕事を見せてくれるのか……。より大きなクラブへの移籍もかかる吉田にとっては、真価を問われる大一番となるだけに、その一挙手一投足が気になる。
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