集客ワーストからの脱却はなぜ実現したか?<前編>=J2漫遊記 第3回・水戸ホーリーホック

宇都宮徹壱

スリリングなゲーム展開だったにもかかわらず

この日、自ら獲得したPKを決めた鈴木。水戸は苦手とする京都に3−1で勝利した 【宇都宮徹壱】

 1−0で迎えた前半39分、鈴木隆行が鋭くえぐるようなドリブルでボックス内に侵入する。たまらずに相手DFがファウルで倒してしまい、水戸ホーリーホックにPKのチャンスが与えられる。鈴木はこれを落ち着いて決め、ケーズデンキスタジアム水戸のスタンドが歓声で沸き立った。しかし喜びもつかの間、アウエーの京都サンガFCは、すぐさま久保裕也のゴールで1点差に詰め寄る。6月24日に行われた、J2第21節、水戸対京都の試合は、予想外にスリリングなゲーム展開となった。

 水戸は後半2分にもPKを得て、これを橋本晃司がきっちり枠に収めて3−1。結局これがファイナルスコアとなった。ホームで勝ち点3を積み上げたものの、水戸の順位は11位と変わらず。それでも6月2日以来4試合ぶりとなる勝利を、非常に相性の悪い京都相手から挙げたのだ(これまでの対戦成績は水戸の2勝5分け12敗)。水戸サポーターにとっては、試合内容も結果も十分に満足できるものだったと言えよう。

 試合後の柱谷哲二監督のコメントからも「お互いに特徴の出た、面白いゲームだったと思います。その中で先制点を取れたのがとても大きかった」と、一定以上の手ごたえが感じられた。私自身、水戸のホームゲームを取材するのは久しぶりであったが、今年36歳になる元日本代表の鈴木と、今年2月に現役高校生ながら日本代表に選出された久保のゴールが一度に見られたことも含めて、大いに満足であった。

 それだけに、この日の公式入場者数が、わずか2701名に止まったのは、何とももったいない話である。ちなみに、この第21節のJ2の平均は5644人。水戸対京都よりもさらに数字が下回っていたのは、ギラヴァンツ北九州対大分トリニータ(@本城)の2129人、そしてザスパ草津対ガイナーレ鳥取(@正田スタ)の1894人であった。いくらJ2とはいえ、これはいささか寂しすぎる数字ではないか。J2のスタジアムは1万人以上収容と決められているが、その4分の1にも満たない入場者数が記録されているのは、決してこの節だけではない。

軒並み苦戦を強いられるJ2の集客

集客に苦しむチームが多いJ2で、ここ数年の水戸は地道に観客数を増やしている 【宇都宮徹壱】

 このところ個人的に気になっているのが、J2の入場者数の推移である。7月25日時点で、J1の平均入場者数は1万6908人。前年の1万5797人と比べて7.0%増である。これに対してJ2の平均は5499人。前年の6423人に比べて14.4%減となっている。最も落ち込みが激しいのが、J1から降格したアビスパ福岡で、実に半分以下の51.1%減。次いでロアッソ熊本の32.7%減、北九州の27.8%減と続く。

 J1は、震災の影響で入場者数が落ち込んだ昨年から、わずかながら復調傾向が見られる。ところがJ2については、昨年からさらに落ち込み、現時点でのリーグの平均入場者数は5000人台にまで下がってしまった。一説には、J1を土曜日、J2を日曜日にそれぞれ固定して開催した結果だと言われている。確かに日曜夜の開催は、翌朝の通勤や通学を考えると、いささかハードルが高く感じられるだろうし、ましてやアウエーに乗り込むとなると帰宅できなくなるリスクさえある。開催曜日固定による入場者数の増減については、今後Jリーグにおいてきちんと精査・検証すべきテーマだと思う。

 とはいえ、昨年と比べて入場者数が増えているチームもある。今季からJ2で活動する松本山雅と町田ゼルビアを除くと、水戸(15.5%増)、草津(8.4%増)、ファジアーノ岡山(7.2%増)、横浜FC(5.3%増)、そして京都(4.0%増)の5チームが、地道に平均入場者数を伸ばしている。ここで特筆すべきが、唯一の2ケタの伸びを示している水戸である。昨年の3349人から3868人にまで増加。今季、J2の節ごとの平均を超えたのは1試合のみだが(第7節の対ジェフ千葉戦)、実は人知れず入場者数をこつこつと増やしていたのである。

 水戸といえば、これまでJ2の平均入場者数ではずっと低迷を続けていたことで、つとに有名である。05年から09年までは、5シーズン連続で平均入場者数最下位となり、10年にはNHKのバラエティー番組「欽ちゃんのワースト脱出大作戦」にも登場。「婚姻率ワースト」「交通事故死ワースト」「日本で一番汚い川」「糖尿病死亡率ワースト」とともに取り上げられ、水戸の集客の悪戦苦闘ぶりは全国的に知られることとなった。

 この番組の効果かどうかは不明だが、この年の水戸はFC岐阜を抜いて、入場者数ワーストから脱出。翌11年は、ビリから3番目となり、今季は20チーム中13位につけている。J2クラブが軒並み集客で苦労を強いられている中、水戸の堅調な伸びはいったい何に起因しているのだろうか? この疑問が今回、私が水戸を取材しようとした一番の動機だったのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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