錦織にとって厳しくも、最高の試金石となった組み合わせ=五輪テニス

内田暁

序盤で実力者と対戦する厳しい組み合わせ

ロンドン五輪の試合会場で練習を行う錦織。五輪の組み合わせは非常に厳しいものとなった 【Getty Images】

 錦織圭(日清食品)にとって、実に厳しい組み合わせになったな……と思うと同時に、テニスにおける五輪の位置付けは相当に変わってきたのだなと再確認させられた。

 28日から始まるロンドン五輪テニスのドロー抽選が26日に行われ、錦織の相手が決まった。第15シードとして優遇される位置にいたにも関わらず、初戦の相手はバーナード・トミック(オーストラリア)。ここを勝っても次はニコライ・ダビデンコ(ロシア)とラデク・ステパネク(チェコ)の勝者との対戦となる。ここに名を上げた3選手はノーシードだが、トミックは急成長中の19歳で、ダビデンコとステパネクは元トップ10ランカーの経験豊富な実力者。いずれの選手も、ランキング以上のポテンシャルを秘めているということは間違いない。だが、そもそもこの五輪に出場するのは、世界のトップ70以上の選手ばかりなのだ。しかも五輪に照準を合わせ、ランキングを急上昇させてきた選手も多い。4年に1度ということを考えれば、ベテランほど「これが最後」の覚悟もある。どの選手も好調で、モチベーションが高いのも当然である。
 
 また、先ほど錦織のドローを見て「厳しいと感じた」と書いたが、逆に考えれば、相手にしても錦織と同じ山に入ったことを不運だと感じているはずだ。錦織がシード選手なのはもちろんのこと、彼が全16人のシード選手の中で最年少であり、今年の全豪でベスト8に入ったことは皆が知るところである。ここ一番での爆発力は、当然警戒されているはずだ。

アンテナの感度が高いゆえに感じてしまう負荷

「錦織は、本質的には団体戦はあまり得意ではないタイプ」
 彼を良く知る人たちがそう言うのを、耳にしたことがある。
 錦織は、非常にアンテナの感度が高い選手である。周囲で何が起きているか、相手や周りの人たちが何を考えどう感じているか……それらを察知する能力に優れた選手だ。だからこそ、試合中でも相手の裏をかくプレーができるわけだし、それが彼の強さの要因でもある。だが団体戦においては、チームメートや監督など、アンテナで受信する要素が多くなりすぎて、混線してしまう。“自分と相手”のみに集中できない状況が、本来の力を抑制してしまうのだ。
 五輪は団体戦ではないものの、「国」という枠で戦う以上、背負うものや考えるべきことは、いつもより多い。テニスには“デビス杯”という国別対抗戦があるが、「そこで戦う時の疲労度は、普段とは全く違う」と選手はよく口にする。国の重みは、それだけ選手の心身に負荷を与えるものだ。錦織は、4年前の北京五輪にも推薦枠で出場したが、その時は初戦で腰に痛みを訴えていた。当時18歳の体が完成にほど遠かったということもあるが、五輪特有の緊張感が、彼の肉体に重くのしかかっていたことは想像に難くない。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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