悲願のメダル獲得へ 必要なのは勝ちパターンの構築=五輪女子バレー展望

田中夕子

五輪最終予選で見えてきた不安

ロシアの202センチ・ガモア対策としてレシーブを極めた佐野 【坂本清】

 1984年のロサンゼルス五輪で銅メダルを獲得して以来、28年ぶりのメダル獲得に期待がかかる女子バレー。スイスでの最終合宿を終え、ロンドン入りした選手たちは「いい状態に仕上がった。メダルを狙いたい」と口をそろえる。

 2010年の世界選手権で3位、11年のワールドカップ(W杯)は4位に終わったが、3位の中国とは勝ち点の差がわずか2。イタリア、セルビア、中国に敗れて、3敗を喫したものの、格上のブラジル、米国にストレート勝ちを収めた印象がプラスに転じ、ロンドン五輪世界最終予選を前に眞鍋政義監督が「ロンドン五輪でメダルを獲得するために(最終予選は)1位通過が絶対使命」と公言しても、異を唱えるのは少数だった。

 ところが、最終予選では8チームによる7戦総当たりのリーグ戦で、4勝3敗。1位通過どころか、出場権獲得は最終日の結果に託される事態を招く。結果として「2セットを取れば出場権獲得」という状況下で、セルビアから2セットを取り、フルセットで敗れはしたものの、辛くも3大会連続の五輪出場権を獲得する形となった。
 このころから、半年前には少数派だった「異論者」が少しずつ増加する。
 女子バレーのメダル獲得は危ういのではないか――。
 それでもなお、選手たちは「メダル獲得のチャンスは、この3大会(アテネ、北京、ロンドン)の中で一番高い」と自信ものぞかせる。
 
なぜ、こうも捉え方が異なるのだろうか。

ロシアのエース・ガモアに屈したことで分かったレシーブの限界

 まず、不安材料をひもとく。
 最終予選でストレート負けを喫したロシア戦は、完全に負けパターンに陥った試合だった。
 絶対的に劣る上背の「高さ」に対するために、日本はブロックとレシーブのディフェンスを固め、ロシアの攻撃を1本でも拾い、攻撃に転じるチャンスを作ろうとした。
 
 しかし、サーブで攻めてレシーブを崩しても、相手の絶対エースとして君臨する202センチのエカテリーナ・ガモアは日本のブロックを壁とすることなく、十分な高さを生かせる場所に供給されたトスを自在に打ち切り、ディフェンスのいないポイントに確実にボールを落とし、得点を重ねた。
 
 試合後、眞鍋監督は「ガモアはどうやっても止められない」と敗因を述べたが、この1戦で日本に与えられたダメージは、単に「1敗を喫した」こと以上に大きなものだった。
 なぜなら、10年の世界選手権でロシアに完敗を喫した際も、全く同じパターンで、徹底してガモアに決められた。その反省から、W杯を迎えるにあたり、眞鍋監督は「サーブとサーブレシーブだけでなく、ディグ(スパイクレシーブ)でも世界一になれ」とチームに目標を課した。
 
 ブロックシステムに劇的な改善がなされない以上、ガモアのボールは上がらない。それを前提とする中で少しでも失点を減らし、自チームの得点にするためにはレシーブで拾うしか策はない。
 決して積極的とは言えない“ガモア対策”をもとにレシーブ練習が強化され、佐野優子(イトゥサチ/アゼルバイジャン)、竹下佳江(JT)ら、もともとレシーブ能力の高い選手だけでなく、江畑幸子(日立)、山口舞(岡山)といった、どちらかといえばレシーブを不得手とする選手のレシーブ力も向上し、W杯では日本のディグの成功率は出場国中、最も高い数字を記録した。
 
 しかし実際は、敗因をもとに課題を克服して臨んだはずが、五輪直前の最終予選で完敗。多くの時間を費やしたにも関わらず、レシーブだけでは世界に勝てないと、皮肉な形で示すこととなった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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