オーバーエイジ・徳永悠平が関塚ジャパンにもたらすもの=マルチな能力と豊富な経験を持つ貴重な存在

元川悦子

周囲を生かそうとする大人の対応

04年アテネ五輪の出場経験もある徳永。豊富な経験を生かし、当時果たせなかった1次リーグ突破を目指す 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 同じFC東京の権田修一から戦術やチームメートのことを事前に確認していたのもプラスに働き、練習初日から違和感なく入れた。今回は酒井高不在もあって、左サイドバックを任されたが、それも自然に受け止められた。「左をやるのはかなり久しぶりだけど、普段チームで右をやってる時とそんなに変わらない」と本人も前向きだった。守備に関してはセンターバックの鈴木大輔、山村和也らとコミュニケーションを取りながら、感覚を研ぎ澄ませていった。

 サイドバックは守りに加えて攻撃参加という重要な仕事もある。それをこなすには、前にいる選手の特徴をつかみ、いいコンビネーションを構築していくことが肝要だ。3日間という練習時間は短かったが「キヨ(清武弘嗣)が前にいるなら当ててワンツーとかで出て行くというイメージを共有できたし、大津(祐樹)だったら体も強くてテクニックもあるしボールも収まるからきちんとボールを当ててやればいい。そうやって選手の特徴とか、相手によって自分の出方を変えていければいいと思う」と彼は彼なりに手応えをつかんだ様子だった。

 このように周囲を生かそうとする姿勢が、ニュージーランド戦ではいい方向に出た。この試合では左MFに永井がいたため、徳永は上がりを自重した。「謙佑はスピードのある選手だから、自分がガンガン前に行ってスペースをつぶしてしまうより、しっかりサポートしてスペースを与えた方が1対1で勝負できる回数も増える。謙佑の良さを最大限出させてやった方がチームにとってもプラスですからね」と彼は大人の対応を見せたのだ。力強いサポートを後ろから得たこともあって、この日の永井は水を得た魚のように生き生きしていた。今季Jリーグでゴールを量産し好調を持続している自信からか、単に速さを生かして相手の裏へ抜け出すだけでなく、中央からミドルシュートを放ったり、スルーパスを出したりと、得点こそ奪えなかったが、非常に多彩なプレーを披露した。

 そんな永井の動きを見ながら、自らも攻めに絡むタイミングを見いだしたのも、徳永らしいところ。それが結実したのが、冒頭の先制点のシーンだった。後半ロスタイムの村松大輔のミスからの失点を防げなかったことについては「今日は勝てなくて申し訳ない」と素直に反省の弁を口にしたが、新チーム初戦でここまでの仕事をこなせれば十分だろう。

「彼の守備力でディフェンスラインの安定感が非常に増した。それが一番大きかった。彼はボールを持ってさばくこともできるし、先制点につながったシュートやワンツーしながら右に蹴りこんだシーンなど、思い切りのいいプレーもできる。彼が行くことで次のリスク管理をチームでするようになる。そんな広がりが出るし、それをみんなが分かってくれればいいと思う」と関塚監督も試合後、徳永に合格点を与えた。

ロンドン世代に足りない世界での経験

 とりあえず順調なスタートは切れたものの、本人にしてみれば、まだ一歩を踏み出したばかり。アテネで果たせなかった1次リーグ突破という大目標を達成してこそ、OAの役割に納得できるはずだ。そのためにも、経験豊富な自分が若手に安心感を与えることが大切だと徳永は考えている。

「アテネの時を振り返ってみると、初戦のパラグアイ戦ですごいガチガチだったイメージしかない。伸び伸びとチャレンジして、失うものはないくらいの気持ちで力を出し切らないと、難しい国際舞台で結果を出すのは難しい。そういう初戦の難しさは口で言っても分かるもんじゃないけど、自分や麻也みたいに苦い経験をしている選手がピッチにいるだけで安心感を与えられるのかな。声を出したり、明るく盛り上げたりして、少しでも緊張感を和らげることができたらいい。むしろ今回は相手がスペインだし、逆にちょうどいいかもしれないですね」と彼は初戦で力を出し切ることの重要性をあらためて強調した。

 これは北京五輪代表を率いた反町康治監督も語っていたこと。北京の初戦・米国戦では、あの長友佑都でさえも足が震えてミスが目立った。反町監督は開始間もなく安田理大にアップを命じたほど、過度な緊張が見て取れたという。「佑都が今みたいにインテルでプレーしていれば、初戦の重圧なんて感じなかった。国際大会はそれだけ難しいし、慣れが必要だと思う」と前指揮官は話す。今回の北京五輪代表はU−20ワールドカップを2回続けて逃している世代。独特な雰囲気の漂う国際大会の怖さを知らない選手も多い。徳永はU−20、U−23で世界を経験してきたからこそ、彼らの足りない部分を補ってやる必要があるだろう。

 そして、左サイドバック以外のポジションも確実にこなすことも重要なテーマだ。酒井高の守備力を考えると、本番でも彼が左サイドバックで起用される機会は増えるだろうが、吉田とセンターバックを組むことも考えられるし、けが人が出れば右サイドバックやボランチでの出場も十分ありえる。「何でもやれるのが自分の良さ」と徳永は自信を見せていたが、ポジションが変われば連携も変わる。それを2週間という限られた準備期間で消化するのは大変なことだが、ここまできたらやるしかない。

「次の合宿からは麻也も入ってくるし、守備の部分をもう1回確認して、イージーミスをなくし、連携を深めたい。自分に何ができて何ができないのかをしっかり反省しながら、どこでもできるようにしたいですね」

 こう前向きに語る徳永には、しばしば不安定さを露呈する若いチームを確実に支えていってほしいものだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

竹田麗央が初の首位発進 2週連続優勝へ「…

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント