議論の余地なき偉大なフットボールとスペインの覇権=もはやライバルは見当たらない

形だけの試合となった決勝

決勝でデル・ボスケ監督はF・トーレス(中央奥)とペドロ(右)を投入し4−0と勝利したが、今後も起用法を巡る議論は続きそうだ 【Getty Images】

 フェルナンド・トーレスとペドロ・ロドリゲスを投入したユーロ(欧州選手権)2012決勝のように、もっとビセンテ・デル・ボスケ監督がウイングとセンターFWを起用していれば、スペイン代表はより圧倒的にゲームを支配し、毎試合のように大量得点を挙げていたに違いない。そう考えている者は少なくないだろう。

 だが現在、“ラ・ロハ”(スペイン代表の愛称)と他のあらゆるヨーロッパのライバルとの間に圧倒的な実力差があることに異論を唱える者はいない。期待されていたドイツ代表との決勝はイタリア代表のせいで実現せずじまいとなったが、そのイタリアもスペインとの決勝では何もさせてもらえなかった。

 キエフで行われた決勝は形だけの試合だった。14分にダビド・シルバの先制点が決まった時点で均衡は崩れ、しかもジョルジョ・キエッリーニの負傷によりフェデリコ・バルザレッティの投入を強いられたイタリアのチェーザレ・プランデッリ監督は選手交代の選択肢を制限された。ビハインドを背負ったイタリアは同点ゴールを目指して前へ出ざるを得なくなり、相手にスペースを与えてボールを独占されることになる。まだ前半ではあったが、この時点ですでに試合の行く末は見えていた。そしてデル・ボスケが2人のFWを投入したことで、スコアは最終的に4−0まで開くことになった。

 あれだけ出場時間が少なかったトーレスが得点王になったという事実は、スペインが試合を通してFWを起用していた場合の底知れぬポテンシャルをよく示している。よりボールポゼッションを重視したデル・ボスケのさい配はリスペクトすべきではあるが、優勝という結果により彼のさい配がすべて肯定されたとは言えない。今後も選手の起用法を巡る議論は続いていくに違いないからだ。

タイトルを勝ち取り続ける可能性は十分

 ただ、このボールポゼッションをベースとした輝かしい攻撃フットボールが変わらないことははっきりしている。それはユーロ2008、2010年ワールドカップ(W杯)に続く王者となったスペインだけではない。あと一歩のところでタイトルに手が届かない状況が16年も続いているドイツ、そしてとうとう伝統のカテナチオの殻を破ったイタリアもそうだ。イタリアは決勝で喫した厳しい大敗だけに結論を求めるのではなく、大会を通して見せた美しいフットボールを評価すべきだろう。

 スペイン、ドイツ、イタリアだけでなく、ユーロでは成功を手にできなかったオランダ、フランス、クロアチアといったチームもみな、フットボールの未来がテクニカルで美しいスタイルにあることを、今大会を通して示していた。

 ボールポゼッションは攻撃のための手段であるだけでなく、守るという意味でも最善の方法である。マイボールを自ら放棄するのは賢い方法ではなく、精度と送り先があいまいなロングボールは有効ではない。ロイ・ホジソンのもとで過渡期を迎えたイングランドまでもが、結果以上に多くの失敗をもたらしたファビオ・カペッロ前監督のやり方では未来がないことに気づき始めている。

 ヨーロッパはもとより、世界中を見渡しても現在スペインのライバルとなり得るチームは見当たらない。よって2013年のコンフェデレーションズカップ、そして同じくブラジルで行われる2014年のW杯でも、優勝候補の筆頭であるスペインがタイトルを勝ち取り続ける可能性は十分にある。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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