運営面で不完全燃焼感残すユーロ=遠すぎた2カ国、海外記者に聞く問題点

元川悦子

両国間の移動は非常に困難

2カ国共催だが、ポーランドとウクライナでそれぞれ独自に開催している印象が強いという 【Getty Images】

 この両国を行き来するとなると、さらなる困難が生じる。ワルシャワとキエフという両国の首都を結ぶ航空便はもちろん頻繁にあるのだが、ワルシャワからドネツク、あるいはキエフからグダニスクといった首都以外の開催都市をつなぐ直行便はないため、必ずどこかで乗り継ぎが必要になる。それによって丸1日を移動に費やすケースも普通に出てくる。知人のジャーナリストはワルシャワからドネツクへ行く途中、経由地チェコの首都・プラハで乗継便がキャンセルになり、2日がかりで現地入りすることになったという。試合に間に合ったからまだよかったものの、毎日動いて試合を取材するというのはかなりハードルが高いことなのだ。

 われわれもワルシャワからキエフまで約18時間かけて夜行列車で移動したが、ポーランド鉄道は西ヨーロッパ規格、ウクライナは旧ソ連規格と線路の幅が違う。このため、ポーランド国境の町・ドロフシク(Dorohusk)で出国手続きを行った直後、ウクライナ側に入ったところの工場での大がかりな台車交換が実施され、さらに入国手続きを経て、ようやく列車が動き出す。こうした作業のために3〜4時間も停車するのは想定外だった。これでは簡単に両国間を往来できないはずだ。

 今回のウクライナの4会場のうち、最もポーランドに近いのがリビウなのだが、ポーランド側からそこに行くのも容易ではないという。実際に現地に足を運んだロシアの『ロシアンレポート』のアレックス・コベルヤツキー編集委員も「ポーランド国境からリビウにはローカル列車が1日に数本走っているだけでとても使えない。高速道路も未整備で、途中にけもの道のようなところがあるから、車移動も簡単ではない。せっかくの2カ国共催なのだから、せめて距離的に近いワルシャワとリビウをスムーズに往復できるような交通アクセスは整備してほしかったのだが……」と残念そうに話していた。

共催というよりはそれぞれの独自開催

 両国のあまりにも遠すぎる地理的関係、移動の問題が足かせになり、今回のユーロは「2カ国共催」というよりは、「ポーランドとウクライナでそれぞれ独自に開催している大会」という印象が強かった。ユーロは00年にオランダ・ベルギー、08年にスイス・オーストリアで共催されているが、これら2回にはもっと一体感があった。わたし自身も08年は現地に赴き取材しており、オーストリア国内は列車が遅れたりして確かに移動が大変だったが、「2カ国で一緒に欧州選手権を開催している」という前向きなムードを実感することができた。

 そういう意味で、今大会はやはり不完全燃焼感を抱かざるを得ない。ポーランドとウクライナ国内では、共催パートナーの試合やダイジェスト番組がテレビ放送されてはいたが、双方の国民にとって共催パートナーの動向はあまり関心がなかっただろう。ポーランドサポーターがウクライナを訪れるケースが多かったことで、両国交流を促進してくれたが、機運盛り上げの問題はやはり残された。

 次の16年大会はフランス単独開催に決まっているが、UEFA(欧州サッカー連盟)はその後も共同開催を積極的に推し進めていくだろう。その場合、どうすれば2カ国がもっと連携して有益な大会にしていけるのかをより真剣に模索する必要がありそうだ。そんなことを痛感させられる今回のユーロ2012だった。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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