運営面で不完全燃焼感残すユーロ=遠すぎた2カ国、海外記者に聞く問題点
高評価を受けたポーランド
ポーランドとロシアのサポーターが衝突した事件はあったものの、大会はほぼ順調に進んでいる 【写真:AP/アフロ】
スペインのニュースエージェンシー『Agencia Colpise』のティルコ・イグナシオ記者が「わたしは1次リーグから準々決勝にかけてポーランド国内を回って取材しているが、スタジアムはモダンで見やすく素晴らしいし、町のボランティアやメディアセンターの人々のホスピタリティーもある。本当に親切にしてもらって助かっている」とポジティブなコメントをしているように、世界各国から訪れる人々を快く迎えようとするホスト国の姿勢を評価する声がメディア関係者から多く聞かれた。
実際、わたし自身もポーランドをベースに動いていたが、まず物価が日本の半分以下で非常に安く、過ごしやすかった。宿泊先もワルシャワ、グダニスク、ポズナン、ヴロツワフの4開催都市は高級ホテル中心に値段が跳ね上がっていたが、少し離れた場所に泊まるなどの対策を取れば問題なかった。移動に関しては、「ワルシャワ〜グダニスク間が約250〜300キロの距離なのに列車で6時間もかかる」「飛行機の便数が少なすぎて、なかなか利用できない」「高速道路の整備が済んでおらず、スムーズに走れない箇所があった」といった厳しい意見も出たが、わたし自身は鉄道で動いていてそこまでストレスは感じなかった。というのも、走るのはゆっくりでも時間が非常に正確だったからだ。トラムやバスを使ってもダイヤ通りに来るから、時間を要することだけ念頭に置けば、計画通りに動ける。そういう意味では、かなり快適だった。
ポーランドでの移動に関して唯一、驚かされたのが、ワルシャワでの試合開催時間にワルシャワ・ナショナル・スタジアム周辺を走るトラムが止まってしまうこと。これは13日のサポーター同士の抗争をきっかけに安全確保を考えて取られた措置というが、ボランティアや市民でもそれを知らない人が結構いた。結果として情報が届かず、ワルシャワ中央駅まで深夜に40分間かけて歩く羽目に。しかし、スタジアム北側を走る国鉄の列車は頻繁に出ていた。そういうインフォメーションがきちんと徹底されていれば、より快適だっただろう。トラブルといえるのはその程度で、ポーランド側はおおむね良好だった。
地元メディアと海外メディアで評価分かれるウクライナ
『コリエレ・デロ・スポルト』のマッシモ・バシーレ記者も「開幕からウクライナ側にいることが多いが、とにかく移動が大変だ。一番移動しやすいはずのキエフ〜ドネツク間も距離は約300キロ程度なのに6時間以上かかる。イタリアと同じでよく列車が止まったり、遅れたりもする。表示もキリル文字がほとんどなので、われわれには難しい。何か重要なインフォメーションが書かれていたかもしれないが、すべてが分からないのでもどかしい」と苦笑いしていた。
確かに、キエフ市内の移動ひとつ取っても難しさがあった。24日の準々決勝・イングランド対イタリア戦当日は、キエフ・オリンピック・スタジアムのメトロの最寄駅である「Olimpiiska」駅が、安全対策のため臨時閉鎖されていた。ところが、メトロ駅に配置されている英語を話せる案内ボランティアはそのことを全く知らず、われわれは何度もその駅に行くために地下鉄に乗る羽目になった。駅にイングリッシュスピーカーを配置する努力は素晴らしいが、肝心の情報が抜け落ちていたのでは元も子もない。結局、キエフ中心部の独立広場に設置されているファンゾーンからスタジアムまで、通常なら15分もあれば移動できる距離を1時間以上も要することになってしまった。
重い荷物を持っているカメラマンはメトロを使えないので、タクシーや車を利用することになるが、スタジアムへの誘導がハッキリせず迷ったという。アイルランドのフォトエージェンシー『Atf photo Agency』のアンソニー・スタンリー・カメラマンは「タクシーがどこからスタジアムに入っていいか分からず、周辺を1時間近くもグルグル回ることになり、本当に困った」とあきれ顔で話していた。
ウクライナはアルファベットの国でなく、英語を話せる人の比率もポーランドよりグッと下がることから、どうしても混乱要素が増えてしまう。それはやむを得ない部分もあるのだが、もう少し改善の余地はあったように思える。だが、ウクライナのスポーツウェブサイト『is−sport.ua』のアンドリー・シニアスキー記者は「アクセス面もホスピタリティーもほぼ問題なかったと思う」と話していたから、地元メディアと海外からやって来たメディアの感覚には多少なりとも温度差があったようだ。