フランス代表、いまだトラウマは癒えず=またも起こったロッカールームでの衝突

木村かや子

歯車が狂い始めたスウェーデン戦

本来の動きとは程遠かったナスリはピッチ外でも問題を起こしてしまった 【Getty Images】

 グループリーグ第3戦のスウェーデン戦で、守備陣、中盤、前線、そしてメンタルと、すべての分野で圧倒されたフランスは、特にディフェンス面で弱さを露呈して完敗した。カバイェが故障で抜けていたために、攻守における中盤のフォローが不足し、それもあってディフェンスはぼろぼろに。常に遅れていたセンターバックのフィリップ・メクセスが、不用意な警告をもらって次の試合で出場停止となった際には、批評家から「次にメクセスが出られないのは吉報」という声が出たほどだった。攻撃面に関しても、この試合で右サイドに入ったハテム・ベンアルファはまったく鳴かず飛ばずで、頻繁にボールを奪われた。かなり動きが悪かったナスリも、チャンスらしいチャンスを生み出せず。だが何より反撃の意欲がまったく見られなかったことが、国民にショックを与えたのだ。

 イングランドがウクライナを倒したおかげで、敗戦にも関わらず2位でのグループリーグ突破を決めたフランスだったが、試合の途中で「耐えられる限界のひどさ」と言っていたテレビ解説者の言葉は、試合後「耐え難い90分」、「この気合のなさは異常」、「これ以上ひどい試合はありえない」に移行していた。

 試合後「謙虚さは、フランス人の特徴的資質ではない」と意味深な言葉で始めたブラン監督は、「気の緩みは、練習のときから感じられた」ともらし、グループリーグ突破を過信するチームが、無意識のうちにスウェーデンをなめ、緊張感を欠いていたとほのめかしている。

ナスリ、ベンアルファ、お前もか

 そして最悪の状況は、試合後に起きた。最後の10分に投入され、ユーロ・デビューを果たしたFWオリビエ・ジルーが「試合後、ロッカールームでちょっとした怒鳴り合いがあった」ともらしたことが、最初にメディアの注意を喚起。「確かに皆、試合後ややナーバスになっていた」とウーゴ・ロリスもやんわりと認めたこのいさかいの様子は、仏レキップ紙によれば次のようなものだった。

1)まず、無様な負け方に神経を高ぶらせた守備的MFのアルー・ディアラが、攻撃的MFの何人かが守備に加勢せず、やる気を見せていなかったと声を上げて非難。これを自分に対する非難と受け取ったナスリが、少なくとも礼儀を保て、と言い返した。

2)試合直後のロッカールーム、ベンアルファが携帯電話で話しているのを見たブランが「それ以外にやることはないのか」と叱咤(しった)。ベンアルファは反撃として、「僕より能無しだったやつがピッチに残っていたのに」と、最初に交代させられたことについて、監督を非難した。これを自分のことを揶揄(やゆ)していると取ったナスリがカッとなり、リベリーが場をなだめる。ベンアルファはまた、自分のプレーが気に入らないなら、家に送り返せと監督に言った。

 ロッカールーム内のやり取りを、レキップ紙がどうやって調査したかは、南アフリカワールドカップ(W杯)時同様、なぞではある。従って上記のことが正確な事実かは定かではないが、ちょっとした衝突があったのは間違いない。翌日の記者会見で、ブランは言い争いがあったことを認めたが「熱くなっていた。南アでの事件ゆえに、わが国はこの手のことに過敏になるが、こういった言い合いは、特に敗戦後、ロッカールームではよくあることなんだ」と、笑みを見せつつ弁明。一方、「互いにミサイルを発射し合っていたよ」という比喩を使ったフローラン・マルダは、「あれはちょっぴり、(南アの)いやな思い出を呼び起こした」ともらしていた。

 どうひいき目に見てもプレーが最もまずく、ハーフタイムに交代させられてもおかしくなかった(実際には59分)ベンアルファが、本当に面と向かって監督に自分を送り返せなどと言ったのか、実はひとりでつぶやいただけなのではないか、という意見もあり、ことの正確さは定かではない。しかし、フランスでプレーしている日本選手の話では、試合後に選手間でプレーについて文句をぶつけ合う、というのはよくあることだという。

 とはいえ、南アフリカW杯でフランスが負ったトラウマは思った以上に深く、それゆえ周囲は過敏に反応する。何より懸念は、こういったことが、チームの空気を汚染しかねないということだった。今回ぶつかったのは、南アで問題を起こしていない、W杯後に呼ばれた選手であり、南アの戦犯たちは傍観するか、なだめに入っているという点も興味深い。ある者たちが心を入れ替えた後に、同じことが繰り返されているのだ。

 ブランは、こういった意見の交わし合いは建設的であり、これが次の試合で奮起を促すことになれば、と話した。しかし残念ながら、それは起きなかったのである。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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