攻守に不安定な王者に忍び寄る危機=クロアチア 0−1 スペイン
メンバーとシステムを変えてきたクロアチア
終了間際にヘスス・ナバス(右端)が挙げたゴールでスペインがクロアチアに競り勝った 【Getty Images】
8年前のポルトガル大会でも同様の条件でグループリーグ第3節を迎え、裏カードのスウェーデン対デンマーク戦が2−2で終わったためにグループ敗退となった経験を持つイタリアでは、ここ数日スペインとクロアチアが「協定」を結ぶ可能性で持ちきりだった。
ユーロ開幕直前に国内で八百長問題が生じたことで神経質になっていたのかもしれない。だが、それを差し引いてもイタリア人の「ビスコット(イタリア語で不正を意味する隠語)」に対する関心の高さは異常なほどで、試合当日のスポーツ紙は自国の試合そっちのけで「2億の目がクロアチア対スペインを注視している」と一面に見出しを打っていた。
たとえアイルランドに10−0で勝ったとしても他力本願は変わらないイタリアに対し、スペインとクロアチアには他会場の状況を見ながらゲームを進める余裕がある。中でも引き分け以上で2位以内が確定するスペインは最も優位な立場にあったのだが、実際にはあわやロシアの二の舞となる大苦戦を強いられることになった。
4−0と快勝したアイルランド戦の先発メンバー11人をそのまま繰り返したビセンテ・デルボスケ監督に対し、クロアチアのスラベン・ビリッチ監督は過去2戦から大きくチームをいじってきた。
ボールポゼッションで確実に上回るだろうスペインに対し、中盤の守備力を強化する必要があると考えたのだろう。ビリッチはシステムを4−4−2から4−2−3−1へ変えて中盤を厚くし、サイドバックとしてもプレーできる守備力の高いダニエル・プラニッチとダリヨ・スルナをサイドMFに起用。さらにキープ力とドリブルの推進力があるルカ・モドリッチをボランチからトップ下に上げ、運動量があり空中戦に強いマリオ・マンジュキッチを1トップとしてカウンターからの一発を狙ってきた。
攻めあぐねたスペイン
お互いチャンスらしいチャンスもないまま時間が経過していく中、最初に冷や汗をかいたのはスペインだった。
27分、自陣左サイドでインターセプトを狙ったセルヒオ・ラモスがマンジュキッチに裏を取られ、慌てて追走した末にペナルティーエリア内で足裏を見せる危険なタックルを見舞う。幸いにもウォルフガング・スターク主審が見逃してくれたこのPKでクロアチアが先制していたら、試合の行方は大きく変わっていたことだろう。
35分にはイタリア先制の知らせが届く。この時点でアイルランドを除く3チームが勝ち点、当該対決の成績&得失点差で並び、当該対決の総得点が多いイタリアが1位、スペインが2位に。つまりクロアチアが勝ち抜けるには最低でも1ゴール以上が必要になったのだが、その後もクロアチアは「まだ0−0でOK」といった様子で攻勢には転じず、ハーフタイムまで守備第一の姿勢を貫いた。
ボールを支配し続けるスペインが攻めあぐね、待ち受けるクロアチアも時折カウンターを仕掛けるもののフィニッシュには至らない。後半に入っても変わらぬ状況が続く中、試合を動かしはじめたのはクロアチアの方だった。
59分、自陣でのボール奪取からクロアチアがカウンターを仕掛け、敵陣右サイドでボールを受けたモドリッチが右足アウトを使ってクロス。ファーサイドに飛んだボールはフリーで走り込んだイバン・ラキティッチの頭にどんぴしゃで合うが、この試合でクロアチアが手にした最大の決定機はイケル・カシージャスが伸ばした両手にはじきだされた。
60分までは省エネモードでスコアの均衡を保ち、最後の30分間に勝負を懸ける。ビリッチはそんなプランを描いていたのだろう。ほどなくビリッチは過去2戦に先発したトップのニキツァ・イエラビッチ、サイドアタッカーのイバン・ペリシッチを同時投入してシステムを本来の4−4−2に変更する。これが攻勢に転じる合図となった。