逆風の中で躍進を続ける「美しいイタリア」=攻撃的なスタイルでベスト8進出

神尾光臣

ヒステリックにあおり続ける報道陣

苦しみながらもアイルランドを退け、2位突破が確定。外圧をはねのけ、実直に戦い続けたことが結果につながった 【Getty Images】

 翌日のガゼッタ・デッロ・スポルトは「美しいイタリア」と見出しを掲げるなど、各メディアは手のひらを返してアズーリをたたえた。しかし長続きはしなかった。彼らはまたしても、サッカーの内容そのものを話題にすることをやめ、クロアチアがアイルランドに勝つと、別の疑念をあおり始めたのだ。

「もし次の試合でイタリアがクロアチアと引き分けた場合、グループリーグ最終節でクロアチアはスペインと談合して、ドローで勝ち上がるのではないか」

 嫌な記憶がある。8年前、04年大会の最終節。カッサーノのゴールでブルガリアに勝利したイタリアだったが、裏カードのデンマークvs.スウェーデンが引き分けとなり、敗退が決まった。当時のトラパットーニ監督は「談合がなかったか調査をするべきだ」と憤慨していた。イタリアでは、争う二者が談合の末に妥協点を見つけて満足することを「ビスケット」といい、敗退後しばらくは「北欧のビスケット」という言葉が新聞上で踊っていた。

 そしてクロアチア戦は、懸念通りドローで終わった。前半はポゼッションで相手を圧倒し、数多くの決定機を築いた上でピルロの直接FKでリードしたが、後半はペースダウン。だが、メディアはドローの戦犯探しにさえも興味を示さず「スペイン対クロアチアはビスケットになる!」と触れて回った。ポルトガル大会と同じく、裏カードが2−2ならばイタリアの敗退だ。彼らはビセンテ・デル・ボスケ監督を、またスラベン・ビリッチ監督を、スペインやクロアチアの選手を追い回し、「フェアに闘いますか? 勝利を目指しますか?」と次々に質問する。そういった状況にはイタリア代表の選手も閉口したほどで、ブッフォンに至っては「敗者のメンタルだ」と報道姿勢を批判。「スペインは結果よりも、常にサッカーの内容を重視して闘っている。その彼らに対し『ビスケット』などと口にできるものではない」。プランデッリ監督はあきれ返っていた。

プランデッリ監督「ハートで闘うことが大事と学んだ」

 他人様どうこうよりも、まず自分たちが最終節で勝利しないことには何もならない。しかし18日、すでに敗退が決まった手負いのアイルランドに対し、イタリアは苦しんだ。プランデッリ監督は、「2トップにより良い形でパスを供給するのと、ロングボールで来る相手にセカンドボールを確実に取れるようにするため」、3−5−2から4−3−1−2へシステムを再変更する。ところが、その中盤が機能しなかった。フィジカルコンタクトに負けてセカンドボールが拾えず、ピルロにも常にプレスが掛けられ、組み立てがままならない。

 だが、彼らは少ないチャンスを生かした。35分、カッサーノが強引にミドルを放ってCKを誘うと、その左CKにニアで反応し、高い打点のヘッドで流し込んだ。後半にはジョルジョ・キエッリーニの負傷というアクシデントがあったものの、途中出場のレオナルド・ボヌッチやアレッサンドロ・ディアマンティが懸命に体を張り、リードを死守。91分には、この日控えに回ったマリオ・バロテッリが、ジョン・オシェイを背負いながらCKを右足ボレーで豪快に合わせ追加点を挙げた。そして、飛び込んできたグループリーグ通過を確定するスペイン勝利のニュース。周囲は雑音を立てまくったが、選手たちは実直に闘って勝ちを得ることで、しかるべき運を呼び込んだ。

「今までの指導者キャリアの中で一番ハラハラした。内容はこの大会で一番良くなかったが、技術だけでなく、ハートで闘うことが大事だということをわれわれは学べた」と、プランデッリ監督は胸をなでおろしていた。

 前の2戦で不発に終わった『悪童』2トップもゴールを挙げた。監督の手綱がうまかった。カッサーノは戦術上の要求に従い、右に左に流れてチャンスを作った。前の2試合で戦術的にかみ合わなかったバロテッリは「キープするのか裏を取るのかハッキリしろ」と課題を突き付けて先発から落とした一方で、使うべき場面ではピッチへと送り込み、結果を出させた。

逆風の中で新しい姿を見せるイタリア

 結果至上主義のイタリアでは、守備的なサッカーを強いられる。そうした環境が守備戦術を磨いたことも事実だが、このメンタリティーに同調せず、選手を育て攻撃サッカーを志向する指導者もいる。プランデッリもその一人だ。サッカー界全体が批判にさらされ、これまで以上にメディアがヒステリックになる中、新しいイタリア代表の姿をアピールしつつ決勝ラウンドへ導いたことは、一定の成功と見て良いだろう。

「これまで、良い内容のサッカーを見せることはできた。引き続き、プレーの組み立てを大事にしたサッカーを披露することを、ファンの皆様に約束する」。決勝ラウンドに向けた抱負も、結果よりも内容に注視したものだった。

<了>

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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