逆風の中で躍進を続ける「美しいイタリア」=攻撃的なスタイルでベスト8進出

神尾光臣

国民の期待値が低かったアズーリ

スペイン戦ではピルロ(右)を中心に攻撃的なサッカーを披露。互角の戦いを演じ、勝ち点1をもぎ取った 【Getty Images】

 ユーロ(欧州選手権)2012開幕前、イタリア代表はプレーに関係のないところで話題を呼んでいた。八百長疑惑が発生し、代表選手も重要参考人として検察に出頭を命じられてはそれも仕方のないことだろう。しかし、地元メディアは当局が捜査対象にしていない選手まで執拗(しつよう)にたたいた。「ボヌッチに八百長関与の疑惑、そしてブッフォンにも不正賭博の疑惑がある」と報道し、彼らの資格を問題視。チームのショックは色濃く、1日の親善試合ロシア戦ではミスを多発し0−3と大敗した。

「むしろこれで良かったかもしれない。みなさんも代表チームそのものを心配するようになるでしょう。そうすれば、サッカーに関係ない話はしなくなるはず」。チェーザレ・プランデッリ監督は皮肉を込めて語っていた。

 もっとも、今回のアズーリに対する期待自体も高くはなかった。組織的かつ攻撃的なサッカーを構築する能力を評価され、チーム再建を任された指揮官は、スペインをベンチマークに2年間を掛けてポゼッションサッカーを作り上げてきた。だが直前の練習試合では3連敗。シーズン中に2度予定されていたミニ合宿も、国内各クラブの反対にあって実施できなかった。さらに、前線に不安を抱えたままで大会に突入することも決まった。度重なる重傷を負ったジュセッペ・ロッシは大会を欠場、心臓疾患で長いこと戦列を離れていたアントニオ・カッサーノはスタミナと試合感が不安視され、能力では問題のない『悪童』マリオ・バロテッリは規律の面で計算が立たず。「タレントがいない」。TVのコメンテーターたちは批判していた。

直前で練習を始めた3−5−2

 そしてプランデッリは直前になり、ユベントスの選手を中心とした3−5−2のシステムをいきなり練習し始めた。メディアからのプレッシャーが強まる中、己を見失ったかと思われたが、そうではなかった。彼は黙々と準備を進め、スペイン戦でサプライズを起こした。

 見事だった。スペインのパスワークを組織的なハイプレスで遅らせると、相手FW陣からセンターバック3人が粘りのディフェンスを見せる。そしてアンドレア・ピルロやダニエレ・デ・ロッシが正確なミドルパスを放って、サイドからチャンスを作る。そして中央にすきが生じれば、ピルロがドリブル突破からの正確なスルーパスを通して先制点だ。その後同点に追いつかれ、フェルナンド・トーレスには度々DFの裏を突かれるが、「自分が(ジュニアのころに)リベロでプレーした時を思い出し、わざとトラップを流させるように仕向けた」というジャンルイジ・ブッフォンのボールカットなどにも助けられ、最終的に勝ち点1をもぎ取った。

「おれたちが今まで、攻撃的なチームを作ってきたことが実ったんだ」とカッサーノは語った。3バックという、一つ間違えれば守備に偏りがちなシステムをぶっつけ本番で使っても、スタイルは変わらなかった。ユベントスのブロックを土壇場で流用したのも「今季、彼らのメンタリティーは攻撃的になったから、われわれのサッカーに組み込むことに支障は感じなかった」(プランデッリ)というのが理由だ。

 本来は攻撃的なウイングであるエマヌエレ・ジャッケリーニを代表初先発にしてウイングバックで使ったのも「高い位置を張らないと3バックは機能しないから」という勇気の選択。そして、本来MFのデ・ロッシに最終ラインの統率をさせたのも、今季は所属のローマで同様の役割をこなしたことを知っていたからだ。バルセロナ型の戦術をベースに攻撃的サッカーの導入を図ったルイス・エンリケ監督は、デ・ロッシにバルサのセルヒオ・ブスケッツのような中盤の底の役割を課し、ポゼッション時には最終ラインに吸収させていた。プランデッリはそれをヒントに、デ・ロッシを3バックの中心で起用した。チームのコンセプトを崩さずに、各クラブから流用できるところを巧みに用いて、システムの変更を成功させたのだ。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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