トーナメントチームの本領を発揮したドイツ=“死のグループ”を3連勝で1位通過

中野吉之伴

大会前は批判が相次ぐ

3試合で3ゴールと結果を出したゴメス(右)は“死のグループ”突破の原動力となった 【Getty Images】

 大会前のドイツはスペインと並び優勝候補の一角に挙げられていた。しかし、ドイツ国内ではむしろ不安のほうが大きく報じられていた。本戦前にあったスイス代表との親善試合でチャンピオンズリーグ(CL)決勝を戦ったバイエルン勢が欠場。控え組中心で臨んだが、守備陣が全く機能せず、3−5と敗れた。バイエルン勢が戻ったイスラエル代表戦は2−0で勝ったものの疲ればかりが目立ち、これといった収穫のない試合となってしまった。専門家からは「単純なミスパスが多すぎる」「守備陣が不安定」「運動量がない」「前線の動き出しが緩慢」「アイデアが乏しい」などなど批判が相次いだ。

 CL決勝でPK戦の末敗れたバイエルン勢の心身におけるコンディションが心配され、さらにドイツが戦うグループリーグBは“死の組”。ポルトガル、オランダ、デンマークとどれも一癖も二癖もある相手ばかりだ。大会前に行われたビルト紙による「ドイツはどこまで勝ち進むか」というアンケートで「グループリーグで敗退する」との声も少なくはなかった。しかし、ふたを開けると他の優勝候補が苦戦する中、グループリーグを3連勝で1位突破してみせた。

3得点と結果を出したゴメス

 初戦となったポルトガル戦のスタメンには2つの驚きがあった。これまで長くスタメンを張っていたエースのミロスラフ・クローゼと、守備の要ペア・メルテザッカーの2人が外されたのだ。2人ともシーズン中にけがで長期離脱し、試合勘が戻っていないことが問題視され、代わりにバイエルンでゴールを量産したマリオ・ゴメスとドルトムントを2冠に導いたマッツ・フンメルスが起用された。

 フンメルスはもう1人のセンターバック、ホルガー・バドシュトゥバーとまるで昔からコンビを組んでいるように息の合ったプレーを見せた。1対1の対応に優れ、ヘディングにも強く、状況判断もいい。攻撃でも鋭い縦パスを通したり、長い距離をドリブルで上がりシュートまで持っていったりと、かつてのフランツ・ベッケンバウアー、マティアス・ザマーをほうふつとさせるプレーを披露している。1試合に1、2回ほど、ほんの一瞬気を抜いてしまい危ない場面を作られるのは問題だが、これは修正できる範囲。グループリーグ3試合を通してフンメルスはベストプレーヤーの一人に挙げられる。

 ゴメスはグループリーグで3得点と結果を出した。ゴメスは優れた点取り屋だが、相手マークをぶち飛ばし1人でゴールを決められる選手ではない。そのため、ゴメスがいるチームには、ゴメスに点を取らせるというチームとしての方向性が必要になる。しかし、ここ何年間かドイツ代表のFWには攻撃の起点となるポストワーク、ポジションチェンジを繰り返しながら味方を生かすプレー、前線からの守備といったものが求められていた。長年エースに君臨していたクローゼはチャンスメークもつぶれ役もできるから、ほかの選手が攻撃に絡みやすい。それが結果としてクローゼもゴールを決められる要因になっていた。

 そんなクローゼとのプレーに慣れているチームメートは、なかなかゴメスを生かしきれないでいた。しかし、ポルトガル戦で難しいヘディングシュートを決めチームを勝利に導くと、自信から動きに思い切りが出てきて、味方からのパスも来るようになった。2戦目のオランダ戦ではいずれもバスティアン・シュバインシュタイガーのアシストから立て続けに素晴らしいゴールを挙げ、勝利に大貢献。デンマーク戦でもルーカス・ポドルスキの先制ゴールをアシストと、機能するようになってきた。

1/2ページ

著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント