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スペイン代表を巡るセンターフォワード論

ユーロ初戦、イタリア戦での奇妙な印象

スペインはアイルランド戦で4−0と大勝。しかし、内容にふさわしいスコアは手にすることができていない
スペインはアイルランド戦で4−0と大勝。しかし、内容にふさわしいスコアは手にすることができていない【Getty Images】

 近年のスペイン代表は、ほとんどのライバルに対してピッチ上ではるかに上回るプレーを見せているにもかかわらず、その差をスコアに反映できていないことが多々ある。より深刻な例と言えるオランダと同じく、ユーロ(欧州選手権)2012でもスペインはゲームを完全に支配し、高いボール支配率を保ちながら、ふさわしい結果を手にすることができていない。


 この点について、ほかの記者たちと話し合い、内容にふさわしいスコアを導き出してみたところ、スペイン戦は毎試合実際の2〜2.5倍の得点差がつくべきだったという結論に達した。とはいえ、これはあくまでも机上の空論に過ぎない。実際のサッカーには審査員も判定勝ちもなく、ものを言うのは最終的なスコアだけだからだ。


 そんなチームがストライカーを必要としていることは誰の目にも明らかだ。それだけに、イタリアとのユーロ初戦には奇妙な印象を受けた。ビセンテ・デル・ボスケ監督はこの試合でセンターFWを1人も先発起用せず、さらにはウイングすら使わずに試合をスタートしたからだ。


 チェーザレ・プランデッリ監督率いるイタリアは、2006年のワールドカップ時のように厳格な守備戦術は用いず、よりボールポゼッションを重視したプレーで挑んできた。だが、これまでずっとそうだったように、もしイタリアがゴール前の守備を固めてくると予想していたのなら、スペインが狙うべきはサイドを広く使った攻撃で相手の守備ブロックを揺さぶり、その中で生じた中央のスペースを突いていくことだったはずだ。


 だがデル・ボスケは、あえてMFの数を増やし、あくまでも中央からの崩しにこだわった。もちろん、スペインのMFはみなテクニックに優れ、疑いようのないタレントを持った選手たちである。実際、回数は少なかったものの、敵陣ペナルティーエリア内までショートパスを駆使して侵入することはできた。だが最終的にジャンルイジ・ブッフォンを脅かすことはほとんどできなかった。


 対照的に、イタリアはカウンターから度々イケル・カシージャスのゴールへ迫り、ほどなくセスク・ファブレガスに同点ゴールを決められたものの、少ないチャンスを生かしてアントニオ・ディ・ナターレが先制点を決めた時点で勝利をつかめる可能性すら感じさせた。

ジョレンテ、ネグレドという選択肢

 にもかかわらず、もう一度イタリアとのユーロ初戦を戦うことになれば、再びセンターFW不在のシステムを採用するとデル・ボスケが主張したことには驚かされた。


 その言葉の真意がどうであれ、この試合では思い描いていたようなプレーができなかったのだろう。アイルランドとの第2戦でデル・ボスケは、フェルナンド・トーレスをセンターFWに起用する通常のシステムに戻した。トーレスはチェルシーで不遇の1年を過ごしたものの、シーズン終盤は個人、チーム共に調子を上げていた。


 デル・ボスケが第1戦を前にトーレスの先発有無を悩んでいたことは確かだろう。だが、たとえ彼を起用しなかったとしても、指揮官にはほかにもフェルナンド・ジョレンテ、アルバロ・ネグレドというセンターFWの選択肢があった。


 イタリアのような相手に対しては特定の選手を前線に張りつかせるのではなく、MFがポジションを入れ替えながら交互に前線に抜け出していく流動的な攻撃を仕掛け、相手にマークを絞らせないことが重要だった。デル・ボスケはそう主張しているが、それは大きな間違いだった。おかげでスペインは少なくない代償を払うことになったわけだが、その代償は1−0とリードした後に自陣に引いて逃げ切りに入り、結果としてクロアチアと引き分けたイタリアの失態がなければ、さらに大きくなるところだった。


 アイルランドとの第2戦では先発起用されたトーレスが開始4分に先制点を決め、結果的に4−0と大勝した。だがこれも試合内容を正当に反映したスコアではなく、スペインはもっと多くのゴールを決められたはずだった。

スペインにはリオネル・メッシがいない

 バルセロナのプレースタイルが最も好まれ、最も結果を出し、最も選手たちに幸福を与えることは事実であり、現在のスタイルで戦うべきことに疑いの余地はない。だがスペインには、バルセロナのサッカーに生じるあらゆる問題を解決してしまう天才リオネル・メッシがいない。ゆえにデル・ボスケは彼の不在を補う方法を見いださなければならない。そして、そのためには相手ゴールの近くに陣取り、DFのマークを引きつけ味方のプレースペースを作り出すセンターFWが必要なはずなのだ。


 さらにペドロ、ヘスス・ナバスといったウイングを加えてピッチを広く使えば、スペインとライバルとの間にあるプレーの質の違いを今まで以上にスコアに反映させるチャンスは増えるだろう。


 実際にトーレスは、そのことを証明するのにたった4分しか必要としなかった。デル・ボスケは初戦のさい配が間違っていなかったと主張している。しかし、もし彼がセンターFWとウイングを前線に起用するようになれば、スペインがユーロを再び制する可能性は確実に大きくなるはずだ。


<了>


(翻訳:工藤拓)

セルヒオ・レビンスキー/Sergio Levinsky
セルヒオ・レビンスキー/Sergio Levinsky

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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