「赤土の王者」ナダルが見せた「一強」ジョコビッチへの挑戦

内田暁

「負けることを恐れる」ことがクレーコートの強さの秘密

 今年のテニス全仏オープン男子シングルスでは、ラファエル・ナダル(スペイン)が雨で2日間にわたって行われた決勝戦でノバック・ジョコビッチ(セルビア)を下し、3年連続、史上最多7度目の全仏王者となった。現在グランドスラム3連勝中で、ジョコビッチの一強時代の到来を予感させるなかでの今回の制覇。その背後には赤土の上で強さを発揮するナダルの特徴、全豪オープン決勝での敗戦があった。

 やはり彼は、ローランギャロスの赤土に愛された存在なのだろう。
 
 スペインのクレーコートで育ち、そして大会に祝福されるかのように、毎年全仏オープン期間中に誕生日(6月3日)を迎えるナダル。大会が用意したケーキを舐める無邪気な笑顔は、もはや全仏の風物詩だ。7年前に18歳で初めてローランギャロスのコートに立ち、大会を終えたときには、19歳の若き全仏チャンピオンなっていた。以降このコートで敗れたのは、3年前のロビン・ソデルリング(スウェーデン)戦のみ。通算成績52勝1敗。彼が「赤土の王者」と呼ばれるゆえんである。

「生きる」赤土の上で常に集中する王者

 なぜ、そんなにクレーで強いのか――。
 
 誰もが気になる率直な問いを優勝会見で投げ掛けられたナダルは、いつもの謙虚な口調と表情を崩すことなく、「僕のプレー、そして精神面がクレーに合っているんだと思う」と答えた。

 「クレーではたくさん走らなくてはならないし、苦しい局面も多い。考える時間が長いから戦術面も重要になってくる。

 僕は、負けることを恐れている。だから対戦相手を尊敬し、彼らが自分を打ち負かす力があることを理解している。この8年間、僕はコート上で常に集中していた。それがこのコートでは重要なんだ。いつも良いプレーをするなんて不可能だけれど、そこそこのプレーのときでも、メンタルは100%だった」
 それが王者が分析する、クレーで勝てる理由である。

 球威を削り取る土のコートでは、ときに「永遠に続くのでは」と思われるほどにラリーが長くなる。多くの選手が「生き物だ」と言う赤土は、日照時間や湿度、そして風などの天候によって刻一刻と変化していく。選手を疲弊させ集中力を削ぐ要素は、山ほどある。そのなかでナダルは常に集中し、常に対戦相手に敬意を表し、負けることを恐れ自身を追い込んできた。その積み重ねが、8年間でわずか1敗という、信じがたい成績を生み出した。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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