メッシに必要なチームとは何か=天才を擁するがゆえに生じた問題

トリデンテ起用を求めているが

メッシはアグエロ(右)、イグアイン(左から2人目)とのトリデンテ起用を求めている 【写真:AP/アフロ】

 しかしながら、フッキやマルセロ、アレシャンドレ・パト、ネイマールといったビッグネームがいるとはいえ、サベーラはU−23のブラジル五輪代表との対戦であっさりシステムを4−4−2に戻してしまった。つまりアグエロはベンチへ逆戻りし、前線はメッシとイグアイン、両サイドにホセ・ソサとアンヘル・ディ・マリアが並ぶ布陣で戦ったのである。

 メッシが決めた素晴らしい3ゴール、そして完ぺきなCKからフェデリコ・フェルナンデスが決めた1ゴールにより、アルゼンチンは攻守の移り変わりが激しい展開の中で0−1、2−3と2度のリードを許した状況を覆すことに成功した。だがこの試合は、チームがまだ攻撃面でそのポテンシャルを十分に生かし切れていない印象を見る者に与えた。ボランチのフェルナンド・ガゴは正確にボールをつなぐものの、彼にFWのサポートやゴールに直結するようなプレーまで期待することはできない。またエクアドル戦と同じくディフェンスラインは不安定で、GKのセルヒオ・ロメロも好不調の波の大きさが改善されていなかった。

 メッシはアグエロ、イグアインとのトリデンテ起用を求めている。だがサベーラは常に自分たちのスタイルを貫くのではなく、対戦相手のシステムによって自分たちの布陣を変えるタイプの監督である。

メッシがすべてとなっている

 試合には勝ったものの、まだアルゼンチンは自分たちがどのようなサッカーを目指しているのか分からぬままプレーしているような印象を受けた。おそらく彼らはメッシのような天才プレーヤーを擁するがゆえに、彼がすべての問題を解決してくれると無意識のうちに頼ってしまっているのかもしれない。

 だが、実際はその逆だ。メッシがバルセロナでこれほど多くの成功を手にすることができたのは、チームが彼一人に頼るのではなく、彼がチームを構成する歯車の一部だと皆が認識していたからにほかならない。

 対照的に、現在のアルゼンチン代表ではメッシがすべてになってしまっている。サベーラはメッシが全責任を引き受けてくれるよう、彼を孤立させないサポート態勢の整ったチームを作ることで頭がいっぱいになっている。

 アルゼンチンがメッシの能力を最大限に引き出せる方法を見いだすことができれば、国際舞台で重要な成功を収める可能性は大きく増すだろう。だが今はまだ、何年も前からその方法を模索し続けている段階にある。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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