今大会も賭け事で団結、スペイン代表の不謹慎=『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』ユーロ2012版

サッカーくじの胴元を務めることになったブスケツ(手前左) 【Getty Images】

 合宿中に金を賭けてサッカーくじなんて不謹慎、というのがわれわれの発想だろう。
だが、それがチームの和に貢献すると信じられているのが、ラ・ロハ(スペイン代表)だ――。

 ラ・ロハを裏から表から楽しむために、現地で記者(『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』の著者ミゲル・アンヘル・ディアス)を密着させることにした、この特別編。今回は、イタリア戦を前に雰囲気作りに乗り出した監督と選手の様子をレポートする。

沈黙の後ブスケッツが……

「すべてが予定通りだ」とテクニカルチームのスタッフの一人は語った。プジョルとビジャ欠場のショックから脱し、ポーランドの合宿地グニエビノでチームは戦闘モードに入った。マドリーのラス・ロサス連盟合宿所をプジョルとビジャが応援に訪れたことで、選手たちも気持ちの整理がついたようだった。

 合宿2日目、昼食を終えたデル・ボスケは選手たちのテーブルに近づき言った。「誰が今大会のサッカーくじの胴元をやるんだ?」。

 選手たちは顔を見合わし、“犠牲者”を探した。プジョル欠場の影響がグラウンド外にも及ぶことを誰もが忘れていた。その責任あるポストに誰もが向いているわけではない。毎日大会の結果を追い、予想を結果に反映させアップデートするような作業を面倒くさいと思う者もいるだろう。ブスケツがおもむろに口を開いた。「ミスター、わたしがやります。シャビが手伝ってくれればですが……」

 サッカーくじは、多くのポジティブなものの象徴だ。冗談ややり合いが雰囲気を明るくし、大会に集中させる……。そうした点を承知しデル・ボスケは継続することに決めたわけだ。ルイス・エンリケがプジョルに譲った後継者の座を、ポーランドでブスケツが受け継ぐ。セルヒオ(彼はこう名前で呼ばれることを好む)に任せておけば間違いないだろう。

 ブスケツは決して責任を負うことから逃げない。グアルディオラがトップチームに引き上げてから、彼は常々マエストロ(名匠)たちに囲まれてきたが、プジョルとシャビに言われたことを覚えている。3年前、ブスケツが出て来たばかりのころだ。「こいつは大物になるぞ」とプジョルは断言し、「グラウンドでの落ち着きぶりは想像以上だ」とシャビがつけ加えた。

 時間は両者に理があったことを証明した。今日、弱冠23歳でブスケツは代表で重みを持つ選手の一人になった。ワールドカップ(W杯)・南アフリカの初戦でスイスに敗れた時に、批判されたレギュラーの座を今や疑問視する者はいない。

メッセージだらけの廊下

 フィジカルトレーナーのハビエル・ミニャノは、試合が近づくとともに選手の顔つきが変わり、空気に緊張感が漂う、と言う。真実の瞬間が来ると、世界中から優勝候補とされる重圧をあしらう術を持たねばならない。合宿先のホテル、ミストラル・スポートの廊下を歩けばラ・ロハの選手たちのモチベーションを上げるためのメッセージにぶつかるはずだ。「歴史ではなく、謙虚さがわれわれを王者にする」「歴史ではなく、努力が勝利に結びつく」「歴史ではなく、才能がゴールを決める」。南アフリカで効果のあったやり方をポーランドでもテクニカルスタッフは繰り返した。

 選手たちはイタリアを甘く見てはいない。4年前にあった決勝トーナメントへの恐怖感や劣等感は今はない。だが、闘争本能がイタリアに対する警鐘を鳴らす。専門家たちは新たな八百長事件がチームを弱体化させると考えているが、82年スペインW杯でも06年ドイツW杯でもイタリアが優勝したのは、同じようなスキャンダル後だった。

 初戦を前にしたスペインの印象は悪くない、と思う。セスクはケガから回復。唯一、デル・ボスケが迷うとすればセンターFW(CF)の人選か。今週シルバ、イニエスタのレギュラー組と、ネグレドとトーレスは交替で練習をしていた。ビジャがいれば間違いなくレギュラーだったこのポジションでは、デル・ボスケが“偽CF”を使いプランデッリを驚かす可能性もあるのではないか。昨年11月のスコットランド戦でシルバを起用し2点をマークさせたのと同じように。

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著者プロフィール

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