やや不完全燃焼に終わった期待の古豪対決=フランス 1−1 イングランド

木村かや子

勝ちに行くリスクを犯さなかったフランス

調子が上がらず、批判されがちだったナスリ(写真)が同点ゴールを挙げた 【Getty Images】

 ユーロ(欧州選手権)2012、グループDの目玉カードとして注目されていたフランス対イングランドの対戦は、結論から言ってしまうと、フランスにとってやや煮えきらない試合となった。

 おそらくご存知のとおり、11日に行われたこの試合では、30分にまずイングランドがFKからのセットプレーで先制。スティーブン・ジェラードのピッチ右寄りからのFKを、アルー・ディアラのマークの裏をかいて飛び出したレスコットがヘッドで押し込んだのだが、このリードは9分しか持たなかった。39分には、マルーダ、エブラ、リベリーとボールが渡り、リベリーがヘッドで戻したボールをペナルティーエリアのすぐ外からナスリがたたいてゴール。ファーサイドに打つと見せかけてニアサイドに決めたシュートは、彼の個人的才能の結晶であり、実際、見事ではあった。

 なのになぜ「煮え切らない」かといえば、試合が1−1の引き分けに終わったからという以上に、プレーがさえない相手を前にしながら、フランスが決然とした姿勢で勝ち点3をもぎ取りに行けなかったからだった。取れるときに勝ち点を取っておかないと、あとで後悔する羽目になる。何より、出場停止処分によるウェイン・ルーニーの不在で、イングランドが攻撃面での牙とインスピレーションを欠いていたというのに、フランスはその幸運を現金化することができなかった。

 後半、4バックの前にほとんど3人目のセンターバック(CB)と化したジェラードをすえ、低い位置でがちがちに守備を固めるイングランドを前に、フランスは、いわゆる「不毛なボール・ポゼッション」を誇示していた。ボールを持ってはいるが、パス回しに速度がないのでイングランドの守備陣はゴール前に結集。それでも何とかバイタルゾーンに侵入しようと努めてはいたが、ときに9人もの相手選手で混み合うセンターからこじ開けようとし続けるため、スペースがなく、一向に突破口を開けなかった。もっと攻撃をサイドにも広げ、相手を散らす動きを混ぜた方が良かったのではと思うが、たとえばサイドバックのドビュッシーがサイドを上がってクロスを入れたときには、エリア内に上がってくる選手が少なすぎた。

 そんなわけでフランスはペナルティーエリア外からのミドルシュートに活路を見いだし、ナスリの得点を生んだプレーのほかにも、カバイェやベンゼマがミドルシュートでゴールを狙ったのだが、追加点を奪うには至らず。終盤には、そうでない“ふり”をしながら、実は引き分けでもよしと考え、ボールをキープすることで満足しているようにすら見えた。理想を言えば、勝利をもぎ取るためにたたみかけるように攻め込むべきだった局面で、カウンターなどで逆手をとられることを懸念し、リスクを犯さなかったのである。

インスピレーションを欠いたブランのさい配

 確かに、ディフェンスにもろさを抱えるフランスは、この日、イングランドに不意にカウンターを食らっており、冷や汗をかく場面も数回あった。この用心深い姿勢は「選択」であり、実際、果敢に攻めてカウンターで失点していたら、「時間の管理ができていない」と批判されることになっていたかもしれない。しかし、かなり受け身になっていた終盤のイングランドに対する、この勝ちに行く勇気のなさには、個人的にはがっかりした。

 フランス代表監督のローラン・ブラン、また大部分のフランスの解説者たちの反応が、「まずまずいいプレーをした」「引き分けはいい結果」と肯定的だったことにも、やや驚いた。確かにリベリーは攻守に奮闘してよい働きを見せたし、ナスリは大事な試合で結果を出す器の大きさを見せた。全体的に見てプレーは悪くなかった、というのは事実なのだが、相手が勇敢ないつものイングランドでなかったときに、「悪くないプレー」で満足しているようではこの先、多くは望めない。

 また、イングランドの固いディフェンスを前に生産性のないパス回しが続いた後半には、よりシンプルでストレートな攻撃ができるオリビエ・ジルー、バルブエナら、初春に別の攻撃オプションを提示した選手を投入しても良かったと思う。しかし、元来用心深いブラン監督は、本番の重要な試合で不発のベンゼマを下げ、ジルーを投入してプレーパターンを変える大胆さを持ち合わせていなかったようだ。結果論だが、ブランが行った、終盤でのハテム・ベン・アルファ、マルビン・マルタンの投入は、単に面子を変えたというだけで、打開策のヒントすらもたらさなかった。

 試合後、ブランは「暑いときには、守るほうが攻撃するよりも簡単だ」と31度の猛暑を不発の理由のひとつに上げたが、同時に、「このようなことは繰り返してはならない」と自らの不手際を認識してもいた。ウェルベックの速攻にうまく対処できずにいた序盤のあと、「失点がわれわれを目覚めさせた」というブランは、「しかしおそらく、ここを通らねばならなかったのだろう。次の試合では、最初から全力全開でいけるよう祈る」と話している。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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