戦うスピリットを失ったアイルランド=アイルランド 1−3 クロアチア

栗原正夫

勝ち点3のみが生き残る道

立ち上がりの失点で崩れたアイルランド。名手ギブン(黄)の反応も及ばず 【写真:ロイター/アフロ】

 試合前夜、モスクワ→ワルシャワを経由して、ポズナン空港に到着すると、すぐに翌日の試合のことを考えさせられた。預けていた荷物を受け取ろうと、ターンテーブルが2つしかない小さなバゲージ・クレームで待っていると、続いてやってきたのは緑のシャツをまとったアイリッシュ・サポーター。飛行機を降りたばかりだというのに、“いい大人”がビール缶を片手に、無邪気に大声で合唱している。

 移動に約20時間を要し疲労困憊(こんぱい)のこちらとは対照的に、ダブリンから約1600キロの航路をやって来た彼らは、まるで力を持て余しているようだった。それも無理はないか。アイルランドにとっては久しぶりの大舞台なのだ。ユーロ(欧州選手権)出場は88年大会以来24年ぶり、ビッグトーナメントでいえば02年ワールドカップ(W杯)・日韓大会以来10年ぶりに彼らは戻ってきたのである。

 試合当日、BBCのニュースでは、アイルランドから2万人を超えるサポーターが開催地ポーランドにやってきたと報じていた。果たしてスタジアムに向かえば、道すがらではそこかしこでグリーンの姿が目に付いた。あいにくの雨もようとなったが、彼らにとっては慣れたもの。まったくお構いなしとわが物顔で辺りのパブを占拠している。サポーターの数では7対3で、アイルランドがクロアチアを凌駕(りょうが)しているといったところだったが、さて試合はどうだろうか。

 ちなみに、この両国はユーロ出場国のなかでは1、2位の小国であり、その人口は500万にも満たず、人口約1億4000万で最大のロシアに比べると、その差違もまた興味深いデータといえるかもしれない(クロアチアの人口は429万、アイルランドの人口は458万)。

 グループCはアイルランドとクロアチアのほか、スペインとイタリアが同居。下馬評では断然スペインとイタリアが決勝トーナメントに進むだろうとの声が多い。

 同日、第1試合では、そのスペインとイタリアが1−1のドローに終わった。それだけに両者にとってはこの対戦こそが、番狂わせを起こすうえで重要になってくる。とりわけ戦力的に見れば、4チームのなかで最も劣るとされるアイルランドにとっては、勝ち点3のみが生き残る道だと思われた。

開始直後の失点で勢いを失う

 アイルランドの先発には、日韓W杯の生き残り組、FWロビー・キーン(31)、MFダミアン・ダフ(33)、DFリチャード・ダン(32)、GKシェイ・ギブン(36)の4人が名を連ね、彼らは今も変わらぬ主力である。指揮官はイタリアの老将ジョバンニ・トラパットーニ(73)。経験を頼りにプレーオフの末、欧州予選を突破し、昨年3月のウルグアイとの親善試合で2−3と敗れて以来、ここ14戦は無敗を誇っている。しかし、その勢いも開始直後の失点とともに、崩れてしまった。

 開始3分、CKをしのぎ切れずに右からダリヨ・スルナにクロスを許すと、これをマリオ・マンジュキッチにヘッドで押し込まれ、0−1。名手ギブンもかき出そうと懸命のセーブを試みたが、わずかに及ばなかった。

 その後、19分に1度はセットプレーから、エイデン・マクギーディーの左クロスを大外に走り込んだショーン・セントレジャーがヘッドで合わせて同点としたものの、そのあとが続かない。

 30分までは、一進一退の攻防が続いたが、以降は完全なクロアチアペース。最終的に勝負を分けることになった前半43分の失点は、オフサイドだったともいえるが、失点の時間帯まで完全に押し込まれていたことを考えれば当然の成り行きだったといえる。ルカ・モドリッチが左足シュートを放ったとき、確かにゴールを決めたニキツァ・イェラビッチはオフサイドポジションにいた。だが、最後はDFスティーブン・ウォードのフィードミス(クリアミス)がイェラビッチの前にこぼれたとの解釈で、判定はオンサイド。不運だった感は否めないが、これもサッカーか。

 3点目の失点は、48分。右からイバン・ペリシッチに許したクロスを中央で再びマンジュキッチにヘッドで決められた。シュートはゴール右ポストを直撃し、跳ね返ったボールが倒れていたギブンの頭に当たってゴールインとなっただけに、悔やまれる失点ではある。しかし、クロスへの対応が遅れ、DFの前でヘッドを許した時点で、勝負は決まっていたといえるだろう。

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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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