岡崎と内田の右サイドがもたらすもの=ザックジャパンの新たな武器になり得るか

元川悦子

ザックジャパンが目指す1つの理想形

ヨルダン戦では右サイドの崩しから得点が生まれた。その契機をつくったのは岡崎(青)だった 【Getty Images】

 前半18分の前田遼一による先制点を手始めに、本田圭佑がハットトリックを達成し、マンチェスター・ユナイテッド移籍が内定した香川真司、負傷離脱した吉田麻也の穴を埋めた栗原勇蔵にもゴールが飛び出した8日のヨルダン戦。6−0で完勝した日本代表は、2014年ワールドカップ・ブラジル大会最終予選の序盤2連戦で勝ち点6、得失点差+9という華々しいスタートを切ることに成功した。

 ヨルダン戦でとりわけ顕著だったのが、右サイドからの崩しだろう。前半の4得点の大半が右からおぜん立てされたことを、われわれは再認識すべきだ。

 その先駆けとなったのが開始早々の5分、遠藤保仁の精度の高い縦パスに反応した岡崎慎司が、相手守備陣の裏に抜け出した場面だ。「ボールの落としどころが悪くて、シュートが甘くなった」と本人が悔しさを口にしたようにゴールには至らなかったが、右の崩しを活発化させる契機になる。これまでの岡崎は一発のスルーパスに抜け出す形にこだわりすぎる傾向が強く、背後にいる内田篤人と連係したり、外に流れてクロスを上げるなどのバリエーションが少なかった。だが、この試合では内田や本田と絡む場面が格段に多くなり、チームとしても多彩な攻撃が見られたのだ。

 前半35分に香川が挙げた4点目などは、右サイドからのアタックが完ぺきに結実したものといえる。

 まず自陣左で奪ったボールを遠藤経由で受けた内田が、岡崎とのパス交換から本田につないだ。内田と岡崎、本田の3人が近い距離で連係し、右でしっかりと起点を作ったのは特筆すべき点だ。それだけ時間を稼げば、ボランチの長谷部誠も大外を回って前へ出られる。右サイドの深い位置で本田からパスを受けた長谷部は、ゴールラインギリギリのところから中央に折り返す。これを岡崎、前田が競り、こぼれたボールを内田が拾い、香川に横パス。そして香川が冷静に右足シュートを決めたのだ。

 これだけの人数が攻撃に絡めば、ゴールにつながる確率も上がる。この1点はザックジャパンが目指す1つの理想形といっていい。

迫力不足に映る右サイド

 今の日本代表は、スキルとフィニッシュの高さを武器とする香川と、ダイナミックなオーバーラップを繰り返せる長友佑都の左サイドコンビから効果的な攻めが繰り出される場面が多い。「左偏重」と言われるほど、世界的ビッグクラブでプレーする2人が数々のチャンスを演出してきた。内田も「真司がいるからボールが収まるし、長友君も上がりやすい。ヤットさん(遠藤)も向こうにいるから、どうしても左回りのボールの動きになる」とその要因を分析していた。

 ただ、その分、右サイドがどうしても迫力不足に映ってしまう。3日のオマーン戦でも、序盤こそ右からの仕掛けが何度かあったが、結局3得点は左サイドか中盤の組み立てから生まれている。左の長友は「オカがあれだけ動いて貪欲(どんよく)に前へ行ってくれるのは、すごくありがたいこと。ディフェンスラインを引きつけて間延びさせる効果もあるしね」と岡崎の飛び出しを歓迎していたが、単調な縦への動きだけではいずれ壁にぶつかる。アルベルト・ザッケローニ監督がこの試合の後半、岡崎と内田をそろって下げ、清武弘嗣と酒井宏樹を投入したのも、こうした危惧(きぐ)をどこかで抱いたからではないだろうか。

 もちろん内田がイエローカードをもらい、岡崎も再三巡ってきた決定機を外したことがこの交代の引き金にはなっている。だが、若い2人に攻撃を活性化してほしいという期待もあったはず。「キヨ(清武)はやっぱりうまいし、(酒井)宏樹も縦にゴリって一発で行く力が強い。チームに新たなオプションをもたらすと思う」と岡崎も実力を認めており、U−23日本代表で右の縦関係を形成する2人の追い上げを強く感じている。2008年にA代表デビューし、4年以上のキャリアを持つ岡崎と内田といえども、うかうかしてはいられないのだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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