スペインがユーロ連覇を達成する可能性=天才的なMF集団が史上初の快挙へ導く

木村浩嗣

守備の不安を指摘する声もあるが

中国との親善試合では辛勝。イニエスタ、シルバ、シャビら天才的なMF集団のひらめきが鍵となるか 【Getty Images】

 ネグレドを除く残り2人の優勝未経験メンバーのうち左サイドバック(SB)のジョルディ・アルバは、今季バレンシアで台頭するとすぐに招集され、すでに9試合のテストを済ませているので、順当な選出。右SBはケガさえなければアスレティック・ビルバオのアンドニ・イラオラだったろうが、セルビア戦で代表デビューしたばかりのA・マドリーのファンフランが滑り込んだ。

 プジョルの欠場と左右SBが新顔になったことで守備の不安を指摘する声もあるが、心配はないと思っている。W杯・南アフリカ大会でのデル・ボスケの戦い方を「守備的」と形容したが、ユーロ2008に比べ最も変わったのが、前線でのプレスの激しさ。ボールポゼッションをベースにしたパスサッカーというとバルセロナのサッカーを連想させるが、スペイン代表のサッカーは、特にデル・ボスケの導入したサッカーは違う。アラゴネス時代より最終ラインの位置を下げ、前線からさほど激しくボールを追わない。マイボールの時もボールホルダーを追い越す動きは少なくなり、フィニッシュでは個人での局面打開力に頼る度合が大きくなった。要は、カウンターを食う恐れの少ない、リスク回避を第一とするサッカーで、その成果は前述の通りはっきり数字に表れた。攻撃サッカーというスペインのイメージとは裏腹に、南アフリカでは決勝トーナメント以降の4試合をすべて1−0でしのぎ切っての優勝だったのだ。

 アラゴネス時代には要求された最終ラインの激しい上下動は、引くところは引いて待つDFにとってはより守りやすい形に変わった。このやり方なら、セルヒオ・ラモスとジェラール・ピケのCBコンビでも問題ないし、たとえレアル・マドリーで出番のなかったプジョルの代役ラウル・アルビオル、同じくR・マドリーでジョゼ・モリーニョ監督の信頼を得ていたとは言い難い右SBアルバロ・アルベロア、彼の控え新顔ファンフランでも務まるだろう。

連覇に近い“堅守遅攻”の戦い方

 デル・ボスケは難しいことは何もやっていない。アラゴネス時代よりもチーム全体の重心を後ろに下げて失点を減らし、その分前線が孤立し、個人の比重が大きくなり、得点も減った。南アフリカで成功した“堅守遅攻”は、同じ短期決戦の一発勝負というポーランドとウクライナでも連覇に近い手堅い戦い方であることは間違いない。

 なお、わたしが指摘したようなビジャ不在の不安や、選手選考に対する疑問は、スペインでは圧倒的多数の支持の声にかき消されている。ユーロ2008と10年W杯の連覇を経て、あれほどR・マドリーとバルセロナを突っつき回るこの国のマスメディアは、代表については「信じること」に決めたようだ。

 例えば、ユーロ予選では8戦全勝だったスペインだが、親善試合では対ポルトガル(0−4)、対イタリア(1−2)、対イングランド(0−1)と今大会出場国に全敗している。連覇前ならば“強国へのコンプレックス”と喧々囂々(けんけんごうごう)だったろうこんなマイナス材料も、今は「しょせん親善試合だから」と余裕で受け流される。

 実際、彼らの自信満々ぶりというか、王者らしい貫禄ぶりを見ていると、3連覇という前人未到の大記録も意外に簡単に達成してしまいそうな気になる。「ボールを支配すればゲームを支配できる」、「ボールがなければ攻められない」というこの国のサッカーの法則によれば、今大会でもどんな相手でも決して50パーセントを割り込まないだろうスペインが、「負けるはずないだろう」という結論にたどり着く。

 ビジャ抜きのFWに不安があろうとも、優勝候補として研究され尽くされてようとも、天才的なMF集団のひらめきが何とかしてしまいそうな気がする。例えば、ネグレドとF.トーレスが仕事をしないまま、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、シャビらの活躍でスコア上は辛勝(1−0)も、内容(特に後半)では圧倒した6月3日の親善試合、対中国戦のように。誰が出ても抜けても穴がなく、逆に絶対的な大黒柱もいない。タレントの総合力と築いたサッカースタイルで上回るチームが、デル・ボスケのプラン通り機能すればMVPはカシージャス。PK戦やPKストップを経ての運も味方しての頂点到達と、なるはずだ。

<了>

『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』(ソル・メディア)

『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』ミゲル・アンヘル・ディアス著、木村浩嗣訳 定価:本体1,680円(税込)/ソル・メディア 【ソル・メディア】

スペイン代表、全面協力のベストセラーが日本上陸! EURO2008、2010年W杯を制し、サッカー界の頂点に立った“ラ・ロハ”ことスペイン代表。あの“ダメ代表”がなぜいきなり無敵になったのか? カシージャス、シャビ、イニエスタら中心選手や、監督、スタッフの証言によって明かされる、驚くべきチームの舞台裏。なぜラウールは外されたのか?“ボールを持って動かす”スタイルを確信した試合とは? チームを結束させた賭けトランプの部屋とは?

スペイン代表と親交の深い著者が長期に渡る密着取材とチームの全面協力を得て執筆。今年4月スペインで発売され、たちまちベストセラーとなった本書を海外サッカー週刊誌『footballista』編集長・木村浩嗣が翻訳。プロローグはカシージャス、エピローグはビージャが特別寄稿!

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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