スペインがユーロ連覇を達成する可能性=天才的なMF集団が史上初の快挙へ導く

木村浩嗣

ダメージが大きいビジャの欠場

得点源であったビジャの代役に選ばれたのは、ビジャとはまったく異なる特徴を持ったネグレド(右)だった 【Getty Images】

 スペインがユーロ2012(欧州選手権)の優勝候補筆頭であることは疑いない。前回のユーロ2008と10年ワールドカップ(W杯)を連覇したのだから当然だ。

 過去ユーロとW杯を連覇したチームは、西ドイツとフランスの2チームがあるが、いずれも3連覇はかなわなかった。西ドイツは1972年欧州選手権、74年W杯を連覇するものの76年の欧州選手権では決勝で敗れ、フランスは98年W杯、ユーロ2000を制したが02年W杯ではグループステージであえなく敗退している。

 しかし、今大会のスペインは少なくともデータ上では、前2チームより3連覇の可能性が高いとは言える。なぜなら優勝経験者が今大会の招集メンバー23人中20人と9割近くを占めており、3連覇を目指した西ドイツの5割(18人中9人)、フランスの7割(23人中17人)を上回り、顔ぶれ上はチーム力を維持しているからだ。

 スペインの世代交代は、前監督ルイス・アラゴネスから現監督ビセンテ・デル・ボスケへバトンタッチしたユーロ2008優勝後に終わっている(8人の新メンバーが加わる)から、2年前の世界制覇後には最小限の変更しか必要なかったわけだ。

 とはいえ、おなじみの顔ぶれから2人がけがで抜けた。DFリーダーのカルレス・プジョルと連覇時の大会&チーム得点王ダビド・ビジャだ。とりわけ、後者の欠場はダメージが大きい。ビジャがいないことで3連覇の可能性が何割か少なくなったことは間違いない。

意外だったネグレドの招集

 アラゴネスからデル・ボスケへの交代で、パスサッカーという大きな流れは変わらないが、戦術的な変更点があった。それがワンボランチ(ユーロではマルコス・セナ)からダブルボランチ(W杯ではシャビ・アロンソとセルヒオ・ブスケッツ)への移行。選手の配置だけで戦い方が決まるわけではないが、このフォーメーション変更には見た目通りの意図があり、結果も出た。ユーロ2008では6試合5勝1分け(1分けはPK戦で勝利したイタリア戦)で12得点3失点だったが、10年W杯では7試合6勝1敗、8得点2失点だった。試合数で1つ多いにもかかわらず、得点は4点、失点は1点少なくなっている。つまり、ボール支配をベースにより守備的なしぶとく勝つチームに方向転換したわけだ。

 となると、得点源であるビジャへの依存度も当然高くなる。ユーロでは12得点中4点が彼のものだったが、W杯では8得点中5点と33パーセントから63パーセントに跳ね上がった。リスクを冒さず、前線の一発芸で勝つ、というやり方で世界を制したデル・ボスケのチームが、最高の芸人を失った。これは厳しい。

 代役に選ばれたのは、アルバロ・ネグレドだった。「ビジャに代わりはいない」(デル・ボスケ)という言葉通り、ビジャとはまったく異なる186センチの体を生かしたポストプレーと突進力が特徴の大型FWだ。

 わたしにとって、これはかなり意外な選択だった。1トップタイプのFWとしてはすでにフェルナンド・トーレスとフェルナンド・ジョレンテがいる。「ジョレンテは空中戦、トーレスは裏へ抜けるスピード、ネグレドは組み立てに参加する力で」とデル・ボスケは選出理由を語ったが、本当か? ネグレドに組み立てを期待? 地元セビージャ所属でホームゲームを全試合観戦した感想から言うと、力強くはあるがトラップなど足下の技術はかなり怪しく、トーレスと印象が重なる。終盤調子を上げたとはいえチェルシーで控えだったトーレスが不調だった場合の代わり、という感じがする。しかも、これら3人のFWは全員がセンターFW(CF)であるため併用できない。連覇時にしばしば見られた左にビジャ、センターにトーレスといった組み合わせ方は期待できないのだ。

 ビジャと最も似ていたのはアドリアンだった。左右両サイドでもセンターでもプレーできる。所属のアトレティコ・マドリーでは攻撃時はラダメル・ファルカオと2トップを組み、守備時はサイドの守備に回るという二役をこなしていた。5月26日のセルビアとの親善試合でも1ゴール、1PK獲得と全得点に絡む大活躍だったが、経験を重視するデル・ボスケにアピールするには不十分。もう一人、ビルバオで輝いたイケル・ムニアインとともにロンドン五輪代表に回ることになった(招集リストは未発表だが確実)。

 アドリアン招集外で、一時盛んに言われたゼロトップの可能性もなくなった。セスク・ファブレガスを偽CFに置き、左右にサイドでプレーでき得点力のあるFW、例えば右にペドロ、左にアドリアンを置くという、バルセロナ版の3トップ(偽CFリオネル・メッシ、左ビジャ、右ペドロ)にヒントを得たものだったが、ビジャとアドリアン不在で適任者がいなくなった。結果、代表のフォーメーションは、不動のダブルボランチと合わせ4−2−3−1の一択になった。F.トーレスもしくはネグレドが1トップで先発、ジョレンテが後半のパワープレー用、周りを5人のMFが固めるという形だ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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