スペインがユーロ連覇を達成する可能性=天才的なMF集団が史上初の快挙へ導く
ダメージが大きいビジャの欠場
得点源であったビジャの代役に選ばれたのは、ビジャとはまったく異なる特徴を持ったネグレド(右)だった 【Getty Images】
過去ユーロとW杯を連覇したチームは、西ドイツとフランスの2チームがあるが、いずれも3連覇はかなわなかった。西ドイツは1972年欧州選手権、74年W杯を連覇するものの76年の欧州選手権では決勝で敗れ、フランスは98年W杯、ユーロ2000を制したが02年W杯ではグループステージであえなく敗退している。
しかし、今大会のスペインは少なくともデータ上では、前2チームより3連覇の可能性が高いとは言える。なぜなら優勝経験者が今大会の招集メンバー23人中20人と9割近くを占めており、3連覇を目指した西ドイツの5割(18人中9人)、フランスの7割(23人中17人)を上回り、顔ぶれ上はチーム力を維持しているからだ。
スペインの世代交代は、前監督ルイス・アラゴネスから現監督ビセンテ・デル・ボスケへバトンタッチしたユーロ2008優勝後に終わっている(8人の新メンバーが加わる)から、2年前の世界制覇後には最小限の変更しか必要なかったわけだ。
とはいえ、おなじみの顔ぶれから2人がけがで抜けた。DFリーダーのカルレス・プジョルと連覇時の大会&チーム得点王ダビド・ビジャだ。とりわけ、後者の欠場はダメージが大きい。ビジャがいないことで3連覇の可能性が何割か少なくなったことは間違いない。
意外だったネグレドの招集
となると、得点源であるビジャへの依存度も当然高くなる。ユーロでは12得点中4点が彼のものだったが、W杯では8得点中5点と33パーセントから63パーセントに跳ね上がった。リスクを冒さず、前線の一発芸で勝つ、というやり方で世界を制したデル・ボスケのチームが、最高の芸人を失った。これは厳しい。
代役に選ばれたのは、アルバロ・ネグレドだった。「ビジャに代わりはいない」(デル・ボスケ)という言葉通り、ビジャとはまったく異なる186センチの体を生かしたポストプレーと突進力が特徴の大型FWだ。
わたしにとって、これはかなり意外な選択だった。1トップタイプのFWとしてはすでにフェルナンド・トーレスとフェルナンド・ジョレンテがいる。「ジョレンテは空中戦、トーレスは裏へ抜けるスピード、ネグレドは組み立てに参加する力で」とデル・ボスケは選出理由を語ったが、本当か? ネグレドに組み立てを期待? 地元セビージャ所属でホームゲームを全試合観戦した感想から言うと、力強くはあるがトラップなど足下の技術はかなり怪しく、トーレスと印象が重なる。終盤調子を上げたとはいえチェルシーで控えだったトーレスが不調だった場合の代わり、という感じがする。しかも、これら3人のFWは全員がセンターFW(CF)であるため併用できない。連覇時にしばしば見られた左にビジャ、センターにトーレスといった組み合わせ方は期待できないのだ。
ビジャと最も似ていたのはアドリアンだった。左右両サイドでもセンターでもプレーできる。所属のアトレティコ・マドリーでは攻撃時はラダメル・ファルカオと2トップを組み、守備時はサイドの守備に回るという二役をこなしていた。5月26日のセルビアとの親善試合でも1ゴール、1PK獲得と全得点に絡む大活躍だったが、経験を重視するデル・ボスケにアピールするには不十分。もう一人、ビルバオで輝いたイケル・ムニアインとともにロンドン五輪代表に回ることになった(招集リストは未発表だが確実)。
アドリアン招集外で、一時盛んに言われたゼロトップの可能性もなくなった。セスク・ファブレガスを偽CFに置き、左右にサイドでプレーでき得点力のあるFW、例えば右にペドロ、左にアドリアンを置くという、バルセロナ版の3トップ(偽CFリオネル・メッシ、左ビジャ、右ペドロ)にヒントを得たものだったが、ビジャとアドリアン不在で適任者がいなくなった。結果、代表のフォーメーションは、不動のダブルボランチと合わせ4−2−3−1の一択になった。F.トーレスもしくはネグレドが1トップで先発、ジョレンテが後半のパワープレー用、周りを5人のMFが固めるという形だ。